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コア  作者: 亜鶴間時間暁
4/10

コア 4



高地悠斗コウチユウトが塾を出た時、外はもう暗くなっていた。

一日では終りそうにない量の宿題をかかえて家へと向かう。

本当はバスに乗れればいいのだが、ちょうどいい時間がなかったため、諦めて歩くことにした。

一応親に連絡を入れてから、肌寒い街中を一人、足早にぬけて行く。


歩き続けていると、ふと道端のベンチが視界の隅に入った。

自分と同じ制服をきた一人の学生が、ぼんやりと宙を眺めながら座っている。

それが竹下雁タケシタガンであると認識した時にはもう、悠斗はその場を立ち去っていた。

話すこともないし、話したくもなかった。

通り過ぎてから、なぜ雁がこんなところにいるのかと考えたが、ほんの一瞬だった。



「ああ…」

もうすっかり悠斗の姿が見えなくなってから、雁は彼の去った方向に目をやった。

「今日も言えなかった」

うつろな目をしたまま、誰に言うでもなくつぶやいた。



ようやく近所まで帰ってきた。

歩いてきたせいか、身体はそこまで寒くはなかったものの、悠斗は早く家で休みたかった。

家まであともう少し…常夜灯の点滅する古びた公園の前を通りかかったその時、派手な金属音がして悠斗は身体をこわばらせた。

「なんだ…?」

公園の方から聞こえた気がしたので、そっと様子を見てみた。しかし薄暗いせいかよく見えない。

…声がする。誰かいるようだ。

悠斗はヤバイと思う反面、少しずつ近づいてみた。

「…!」

そこには真っ赤な眼をした大きな「なにか」がいた。

明らかに人間ではないそれをなんというのか、悠斗にはわからなかった。

点滅する公園の明かりの下、「なにか」がもぞもぞと動いている。

「聞いたぜ…やっぱりあんたも戻ってたんだな」

不意に「なにか」が口を開いた。人の言葉を話せるようだ。

「まだ完全じゃない」

影になって見えないが、別の声が聞こえた。

「いいざまだ」

逃げないといけないという気持ちと少しの好奇心との間で、悠斗は揺れていた。

(どうしよう)


その瞬間だった。

「えっ…」


目の前にあの真っ赤な眼があった。

思わず足がすくんだ悠斗は、そのまま地面にしゃがみこんでしまった。


それは「鬼」だった。

いや、悠斗は鬼というものを創作物でしか見たことがないので、本当に鬼なのかはわからなかったが、それを表現するのに最もふさわしい言葉が「鬼」だった。

赤く充血した眼、腰の曲がった大きな身体、鋭い爪…。

「見られたぜ…」

じっと悠斗をのぞきこんだまま鬼が言った。口もとから尖った牙が見え隠れする。

すると、さっきまで反対側にいて見えなかった話し相手が、動けない悠斗をかばうように、すばやく鬼の前に立ちふさがった。


(この人は…?)

背中からしか見えないが、がっしりとした身体に古ぼけた服を身に付け、手には日本刀のような刀を握っていた。人間であることは間違いないが、「普通」ではなかった。


「それがどうした」

落ち着いた様子で剣士が言った。

「昔は俺たちも別の立場だったがな?今はどうだ?なにがあったか知らねえが、せっかく戻ってきたってのに、情けねえ…。まともに人間一匹仕留められないくらい衰えてんだからな。もうあんたも同じようなもんだ。やり合ったって仕方ねえだろ」

そう言って鬼は、剣士ごしにじろりと悠斗の方を見た。

「だがどうせ消すんならなあ、やっぱり「そういうの」を消せねえと…」

「無理だな」

剣士は即答した。

「我々は対峙する運命にある。それは変わらない」

「もう「人間」にはなれないんだぞ」

そう言った鬼を、剣士はすばやく斬りつけた。

避けるまもなく深傷を負った鬼は、最後の息を吸い込んで、そのままこときれた。


一瞬、悠斗の方を向き直る剣士。

悠斗が恐るおそる見上げると、いつものお人好しな目がそこにはあった。

「高地君…僕…」

雁はよわよわしくそう言うと、ぺたりと地面に座り込んだ。

力が抜けた悠斗は、そのまましばらく一緒になって座り込むことしかできなかった。



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