コア 2
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竹下雁に名前を呼ばれた高地悠斗は不機嫌だった。
朝から一番会いたくないやつに出くわしてしまったからだ。
「今日日直なの?」
あからさまに嫌な顔をしているはずの悠斗に、雁は気にせず話しかけてきた。
「違うけど」
「そうなんだ。早いからなにか用事でもあるのかと思ったよ」
「いいだろ別に…」
「こんな寒いのに体育なんてやだよね。あの先生さー…」
「悪いけど急ぐから」
そう言って話を無理やりさえぎると、悠斗は急ぎ足に自分の教室ではなく図書室へ向かった。
「あ、ごめん!またねー!」
後ろでのんきな雁の声がする。
悠斗は息を切らしながら席につくと、いくつかのプリントと問題集を机に置いた。
朝の図書室には彼の他にほとんど生徒はいなかった。
「はぁ…」
なんであんなやつと同じクラスなんだろう。よりによって大事な受験の年に。
少し呼吸を整えてから、悠斗はさっさと自習にとりかかった。
悠斗と雁は小学校からのつき合いで、家も近所なことから、顔を合わせる機会も多かった。
しかしだからと言って「仲がいい」というわけではなかった。
雁はそうでもないが、悠斗の方はとにかく雁のことを嫌っていた。
彼の何がそこまで気に入らないのか。性格か態度か…。
はっきりとは言えないが、悠斗にとって雁はある意味「天敵」だった。
しばらくして予鈴が鳴ったので教室へ向かうと、クラスメイトたちも大体集まっていた。
悠斗は自分の席についた。
「はよー。遅いじゃん」
「図書室行ってた」
「ひぇ。偉いねぇ」
「はいはい」
前後の席の友達とだらだら話す。
「ねえ高地君、あのさ…」
突然雁が声をかけてきた。反射的ににらみ返す。
「何?」
「…いや、えっと」
「なんだよ」
「うん…ごめん」
結局何も言わず雁は自分の席へ戻って行った。
「どんまい、がんちゃん」
そう言った友達も、悠斗は同じようににらんでやった。
「こっわ。なんだよ。いいじゃん、がんちゃん。あの感じ俺すきだけどねー」
「あっそ」
悠斗は机にもたれかかってふて寝のポーズをとった。
「なに言おうとしたんだろ、がんちゃん」
そうつぶやく友達の声を、 ホームルーム開始の本鈴がかき消した。