コア 1
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朝7時。アラームの音で高地悠斗は目を覚ました。
のそのそと高校の制服に着替え、一階へ下りる。
リビングではすでにワイシャツ姿の父が朝食を食べ始めていた。
「おはよう」新聞でほとんど顔の隠れた父が言った。
「うん」悠斗も席につく。
「おはよ、悠斗」母がトーストとサラダが盛り付けられた皿を差し出す。「ジャムは自分で塗ってね」
「いただきます…」
朝のニュース番組を見ながらのいつもの時間。
「お母さーん!あたしのミニバック知らない?」
2歳下の妹、悠菜がまた何かを探している。
「だから昨日確認しときなさいって言ったのに。自分の部屋にあるんじゃないの?」
「えー!探したもん」
「いってくる」支度の終わった父がカバンを持って立ち上がる。
「ああ、いってらっしゃいあなた。今日は大丈夫そう?」
「多分な。会議さえ早く終われば、残りは家でもできるんだが」
「そう、気をつけてね」
「うん…、あ、悠斗」
「何?」まだ寝ぼけた目で父をみる。
「勉強も大事だがあんまり遅くまで起きとくなよ。睡眠も大事らしいぞ」
それだけ言って、父は会社へ向かって行った。
「また徹夜?」母が心配そうに聞く。
気がつかなかったが、父は昨日帰りが遅かったらしい。その時に見られていたのかもしれない。
「いやそんなに遅くまではしてないよ」悠斗も支度を整える。
「お父さんもああ見えて一応は心配してるみたいね」
「今日は塾行くし、課題さえ終われば早く寝れるって」
「似てるよね悠斗」探し物の終わったらしい悠菜が母の隣でニヤリと笑う。
「遅れるぞ」妹のことは待たず、悠斗は玄関を出た。
閉じた扉の後ろで、二人の慌ただしい会話を聞きつつ、いつもの通学路へ歩き出す。
(今日は水曜日…1限から体育か…。だるいな。
早めについたら授業までに数学の予習やっといた方がいいか。
そういやあの課題まだ期限あったっけ。
あとで聞いとかないと…。)
「あ、高地君」
名前を呼ばれてふと顔を上げると、見たくない顔があった。
「おはよう。今日も寒いね」
竹下雁…悠斗が最も嫌いな同級生だった。