善生館
今回は善生館のメンバー紹介回みたいな感じです。
日ノ下灯吾と鎌田清十郎は、今にも雨が降りそうな曇天の野道を歩く。特に会話も無く、ただひたすらに歩く。灯吾は清十郎にぴったりとくっ付いているが、表情が暗い。
歩き続けて四十分、いつの間にか野道は整えられた道へと変わり、周囲には木造の建物が並び、いかにも街と呼ばれる場所へと辿り着いた。
灯吾は昔から父と共に買い物などで街へ行くことがあったが、今来ている町は父と来た町とは別の街だったので、灯吾は随分新鮮に感じた。
曇天ということもあり、日の沈みかけの頃だったが街にはあまり人がいなかった。
街の中を歩いている時、灯吾のお腹から、ぐぅと音がした。
「お腹が空いているんだな。もう少しで着くから少しの我慢だ」
清十郎は灯吾に言う。灯吾は少し恥ずかしそうな顔をしたが、両親を目の前で惨殺された影響で暗い表情はそのままだった。
さらに歩き五分ほど。一際目立つ大きな門の前に着いた。門の上には大きく『善生館』と書かれた札が下がっている。
「着いたぞ。ここが俺の住んでる善生館だ。剣術の指南を教えている所なんだ。」
清十郎はそう言うと、ゆっくりと門を開ける。門は可動部をギシギシと音を立てながらゆっくりと開く。
門が開くと、そこには一人の青年が立っていた。深い緑の髪で目が赤い。その青年も武者袴で刀を腰に提げている。
「ちょ、鎌田さん、偶然すぎじゃないですかね。あまりにも遅いんで迎えに行こうかと思っていたんですけど。あ、御頭様が晩飯作って待ってますよ... って、その男の子... え!! 誘拐!?」
青年は目を大きく見開きながら驚愕の表情で言った。
「お前なぁ... この子、化け物に襲われたんだ。この子は生き残ったが、両親が化け物に殺されてしまってな... 」
鎌田は低く悲しい声で言った。青年も流石に冗談言ってる場合では無いと思ったのか、「すみませんでした」と謝罪した。
「とにかく、御頭が待ってるので行きましょう。その子のことも、御頭様に話す必要がありますね。」
青年がそう言うと、灯吾は清十郎と一緒に善生館へと入っていった。
草履を脱ぎ、畳の上を歩く。
「これからみんなの前に出るけど、そんなに緊張しなくてもいいからな。大丈夫だよ」青年は灯吾に言った。
「あ、俺の名前は、葉琴 峰和。よろしくな」
青年は自分の名前を灯吾に言う。軽く紹介を終わらせ、峰和はふすまを開ける。するとそこには数人の大人と二人の子供が美味しそうにご飯を食べてる姿があった。
「おぉ遅かったな... って...」
一番奥に座っていた男が言ったその直後だった。」
「「誘拐!?」」
その場にいた一人の明るい青色で長髪の青年以外が、灯吾を連れている清十郎を見て一斉に驚愕した。
「だから違うって言っているだろどいつもこいつも... 」
清十郎は呆れている様な言い方で言った。さすがに冗談だと分かっているが、灯吾の今の心境を考えると、あまり笑えなかった。
「まぁまぁ、話は食べながらするとして、とにかく食べなさい。皆で食う飯は上手いからな」
一番奥に座っている男が言った。
清十郎が座り、その真横で灯吾も一緒に座る。峰和も清十郎と反対側に座り、ご飯を食べる。
「して、清十郎。その少年はどういう経緯で一緒にいるんだ?」
一番奥の男からの質問に清十郎は答える。
「実は... 」
清十郎は皆に灯吾と共にいる経緯を話した。また、清十郎は灯吾をここで保護したいと言い、これから灯吾を善生館の一員として迎えたいと話した。
「あぁそういうことか。少年は灯吾って言ったな。全然良いぞむしろ歓迎だ!」
一番奥の男は笑みを浮かべて言った。
「俺の名前は府輝瀬 琳海、この善生館の当主をしている。みんなからは親方って呼ばれてる」
一番奥に座っていた男が自己紹介した。髪は短髪で黒く、若いとは言えない見た目ではあったが、着物越しでも分かる筋肉量。肩幅が広く、しっかりとしたその身体はとても力強い。しかし笑顔はとても優しかった。
「よしそれじゃあ、新しい住人が出来るということで、みんな自己紹介して行こうか」
琳海が皆に自己紹介を促す。
「よーし最初は俺からだ! 俺は鐘嶋 響次郎! 趣味は鐘の音を聞くこと!よろしくな灯吾!!」
勢いよく立ち上がり最初に名乗り出た人は鐘嶋 響次郎。琳海と同じく筋肉がとても発達している。短髪で、とても爽やかで笑顔が映える男だ。
「響次郎... あまり大きい声を出すと灯吾くんが驚くだろ。あ、俺の名前は時嵜 秋晴。趣味は本読み。変なやつらばっかだけど、そこが良いって感じのやつらばっかりだから(笑)。よろしくね。灯吾くん」
次に名乗ったのは時嵜 秋晴。目に少しかかるくらいに伸ばされた髪で、髪色は黒。眼鏡を身につけており、いかにも文学に詳しそうな雰囲気である。身長も高い方である。
「...千夜 蒼弦だ。よろしく」
千夜 蒼弦。明るい青色の髪色で長髪。前髪を後ろに撫で付けて、髪を後ろで引き結ぶ総髪で、いかにも剣士らしい風貌。体格は比較的小柄で、ここにいる人の中では子供二人を除けば一番小さい。顔は鋭い目付きで、表情が読み取れない。顔立ちは良く、美青年である。
「蒼弦... もう少し言ったらいいんじゃないのか? 僕は鳥羽 金頼。金と可愛い子が好きかな!まだ経験無いけど!!」
「気持ち悪い... (ボソッ)」
「聞こえてんだよ蒼弦!!!」
騒いでいるのは鳥羽 金頼。金髪で後ろ髪を首元までさげた髪型をしている。身長は秋晴と同じ程度である。容姿はとてもまとまっている。
「鳥羽さん、そんなことだからかっこいいのに彼女の一人もできないのですよ?私は澄川 蘭華。そこにいる鏡華の姉ですよ〜。よろしく〜」
「あ、姉に紹介されました... 妹の澄川 鏡華です... よ、よよよよろしくお願いします...! 」
澄川蘭華と澄川鏡華、文字通り姉妹である。姉の蘭華は黒髪で腰まで伸びている。身長も秋晴より少し低いくらいで、女性としては高い部類に入る。
一方妹の鏡華は、姉とは違い桃色の髪色で、髪を肩までのばしている。それ以外の大きな違いと言ったら胸であろう。蘭華はとても大きいが、鏡華は比較的小さめである。
「鏡華... お前ちょっと緊張してねーか?あまり緊張してばっかもよくねーぞ。あ、俺は月影 銀山。えーと... あれ、灯吾お前何歳だ?」
「えっと、八歳、です」
「お、なら俺が二つ年上か。って言ってもお互いガキだしな。敬語なんて使わずに仲良くやろうぜ。よろしくな」
灯吾の反対側に座っていた少年、月影銀山。銀髪であまり落ち着いてない髪型。目付きは鋭いが、蒼弦とは違いどこか優しさも併せ持っている。
「じゃ、改めて。葉琴 峰和だ。よろしく」
峰和は優しい目をしている。身長は蘭華と同じくらいである。
「俺も改めて。鎌田 清十郎だ。よろしくな、灯吾」
清十郎は深い青色の髪を総髪でまとめている。身長は金頼と同じ程度で、金頼とは古くからの仲である。
全員の自己紹介を聞いた灯吾は、ある共通点に気づいた。それは『ここにいる全員の目が赤いこと』。気になって清十郎に聞いてみるが、返事は「また今度」の一点張りだった。今すぐにでも知りたいほどではなかったので、灯吾は気にするのをやめた。
深夜。灯吾は銀山と鏡華と一緒の部屋で布団に入りながら雑談して親睦を深めていた。
一方、清十郎は善生館当主の琳海の部屋に呼び出され、琳海と清十郎の二人で話していた。
「清十郎、灯吾の事だが... 」
「はい、銀山と鏡華はまだわからないですが、それ以外の皆も気づいているでしょう。私も最初は気付きませんでしたが... 」
「俺たちの道に、灯吾も入らなければならないのか」
「入るか入らないかは灯吾次第です。選択を強制させることは、我々にはできません」
「そうだな...。 でもまさかとは思ったよ。灯吾が『緋眼』の持ち主だったとはな」
前回とだいぶ雰囲気が変わったと思います。
くらいがことばっかろではなく、面白い言い回しや会話を使って展開していきます
次回は清十郎が灯吾にとある提案を...?