留学 四
「森川さん、半年前に、僕たちが映画に行った時のこと、覚えてます?」
「…はい、覚えてます。」
「あの時、『僕には好きな人がいる』って僕、言いましたよね?」
「…はい。」
「…実はそれ、森川さんのことなんです。
僕、森川さんの『パティシエになるために、フランスに留学する。』っていうこと、森川さんの夢を邪魔したくなくて…あんなこと言ってしまいました。
でも僕は、今でも森川さんのことが好きです。僕は、森川さんとずっと一緒にいたいです。だから…、」
ちゃんと考えてきたはずの台詞なのに、僕は物事を順序だてて話すことができない。…慌てて僕は、説明をつけ加える。
「…ってか、こんなこといきなり言われても意味不明ですよね?…あの時も、そうでしたよね?
何でこんなこと言ってるかって言うと、僕と森川さんは元々付き合っていて、それで留学が決まった時に、僕たちはそれが理由で別れて、それで…、」
相手にとってさらに意味不明であろうことを僕が言っていると、亜紀の口から意外な一言がとんできた。
「タイムスリップ…して来たんですよね?」
「え、あ、はい、そうなんです。
…えっ!?」
「大丈夫、私、翔真の言ってること、ちゃんと分かるよ。
だって私も、『タイムスリップして』、ここにいるんだから。」




