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それは、言ってはいけない言葉 十五
その後、亜紀と別れた僕は、家の周りを少し散歩していた。
まだ色づいてはいないが、紅葉のシーズンを本格的に迎える頃になると鮮やかな色を見せる木々が、家の周りにはある。それは、見る人を明るくさせる紅葉…のはずだが、今の僕にはそれを心待ちにする気持ちは全くない。
僕の心にあるのは、秋という季節が深まってくるのに合わせた寂寥感だけであった。
そんな寂寥感の中、僕は歩きながらさっきの亜紀との会話を思い出す。
僕は亜紀のことが今でも好きだ。だからこそ、僕は亜紀に「好き」ということを伝えてはいけない。
それは、この後夢を持ち、フランスに留学する亜紀にとって、「言ってはいけない言葉」だ。
でも、これで良かったのだろうか?僕はふと、そんなことも思う。
そう、僕が言ってしまった言葉は、僕たちの終わりを意味する言葉だ。それは、嘘はついてはいないものの、亜紀を傷つけたかもしれない言葉…。それは、本当に正しい選択だったのだろうか?
そう考えると、その言葉は僕たち2人にとって、仲の良かった2人にとって、
「言ってはいけない言葉」のような気がした。




