それは、言ってはいけない言葉 十四
「実は僕には、好きな人がいるんです。その人は、優しくて、でも負けず嫌いな所もあって…、本当に、かわいらしい人です。
そしてその人には、夢があるんです。僕は、その人の夢を邪魔したくないんです…。
って、わけ分かんないですよね?ごめんなさい。
それで、僕はその人を、悲しませたくありません。だから、僕はその人のために、もう森川さんとこういう風に会うことはできないんです。
僕は、森川さんのことが嫌いなわけじゃありません。ただ、僕は、本当に『その人』のことが好きなんです。だから…、
ごめんなさい、森川さん。」
気づいたら僕は、映画以来の涙を流しながらそう言っていた。
『この時点での亜紀にしてみれば、僕の言っていることは全部は理解できないだろう。
でも、それでも…。』
僕は亜紀に、そう言った。
また、僕は亜紀に、嘘はつけなかった。だから、「亜紀のことが嫌いだから、もう会いたくない。」とは、どうしても言えなかった。
そして、それまで僕の話を黙って聴いてくれていた亜紀が、口を開く。
「豆田さん…豆田さんは、『その人』のことが本当に大事なんですね?」
「…はい。」
と、僕は答える。
また亜紀の方も、少し泣いているように見えたのは、気のせいだろうか。
「…分かりました。ではこれで、私も豆田さんとこうやって会うのは最後にします。
今まで、本当にありがとうございました!」
「こちらこそ、ありがとうございました!」
僕は、亜紀に「好き」と伝える代わりに、今までの全ての気持ちを込めて、感謝の言葉を言った。




