52/68
それは、言ってはいけない言葉 九
〈(2017年10月22日、2回目)〉
「あ、すみません豆田さん。…待ちました?」
「いえいえ、全然待ってないですよ。」
「本当ですか!?豆田さん、優しいですね!」
見覚えのあるキャメル色のコートが、僕の目の前で動きを止める。亜紀は、僕に気づいてから早歩きで僕の所まで来て、僕の所で立ち止まって、そう言った。
「ごめんなさい、急に呼び出したりなんかして。」
「いえいえ。森川さんは映画が好きなんですか?」
答えを知っているのに、僕はそんな当たり障りのない質問をする。
「はい!それに私、この『20kHz』、どうしても見たかったんです!」
そう言う亜紀はとっても明るくて、やはり、見ているこっちまで元気にさせられる力を持っている。
そこで僕は、
『亜紀って、自分の彼氏以外にも、こんな愛嬌を振りまくのだろうか?
恋愛は苦手、って言ってたけど…。』
と考えてしまい、なぜかジェラシーを感じてしまう。
「豆田さん、どうしました?」
「…いえ、何でもないです。」
「じゃあ、行きましょっか!」
「…そうですね。」
こうして、僕たちは映画館に向かう。




