プロローグ 三
「翔真、私、夢ができたんだ!私、将来パティシエになりたい!」
そう亜紀が言いだしたのは、去年の12月からであった。
「へえ~そうなんだ亜紀。すごいなあ!」
僕はそう言ったが、次に、
「でも、パティシエってそんなに簡単になれるの?」
…ふと疑問を口にした。
「もう~翔真、彼氏なんだから私のこと、応援してよ~!」
「え、ああごめん。そうだよね。」
「冗談冗談。いいよ。私ちゃんと翔真が私のこと考えてくれてるの、分かってますって!」
付き合って約2ヶ月。亜紀はそんなドキッとするような台詞も、時々言うことがある。
「それで、パティシエのことなんだけど、やっぱりなるのは難しいみたい…。
私、今までお菓子の勉強なんかしたことないから、今の大学を卒業して、まず専門学校に入るのが、パティシエになる近道かなって思うんだ。
ただ、私もっと早くパティシエの勉強がしたいから、一旦大学を休学して、専門学校に行くつもりだよ。
もちろん、大学はいずれ卒業するつもりだけどね。まあ、大学の単位もだいぶん揃ってるしね。
あと、「製菓衛生師」っていう資格もあって、そういった資格取得も考えた方がいいって、ネットに書いてあったよ。
でも、専門学校を卒業してもそこから実際のお店での下積みも経験しないといけないみたいだし、なかなか大変な道のりらしいんだ…。」
彼女はそう言い、本当に大変そうな様子を見せた。しかし、その直後の彼女の目はキラキラしており、困難を乗り越えて、パティシエという夢をつかもうという気持ちに満ち溢れているように感じられた。