出会い 九
「…ってか、翔真泣いてる?」
「いえ、ちょっと来る途中で、目にゴミが入っちゃって…。」
部長がそう言う。その一言は、1回目のこの日にはなかったものだ。
また、部長にそう言われるまで、不覚にも僕は自分の目に涙が溜まっていることに気づかなかった。
しかし、とっさにそうごまかしたことは、僕の割にはよくできた嘘だ。
そして、これから僕はもっと大きな「嘘」を、自分自身につかないといけない。
それを考えると、もっと涙が溜まってくるが、何とか僕はそうなるのをこらえた。
「そういえばさ翔真、今日、新しい子がうちのサークルに入ってくるからね。」
それは、聞き覚えがある、1回目のこの日にも聞いたことのある台詞である。
「ああ、そうなんですね。」
その部長の一言に僕は、気のない返事を返す。
「何だよ~もっと喜べよ。
ちなみにその子、めっちゃかわいいからな!」
僕のリアクションで、またも過去が少し書き換えられた。
なぜなら僕は1回目のその日、
「えっ、そうなんですか!?楽しみだなあ!」
と、ハイテンションで返事をしたからだ。
しかし、悲しい恋の結末を知る僕としては、とても喜べる気にはなれなかった。




