プロローグ 一
「ねえ、翔真、私たち、今日で別れない?」
僕、豆田翔真は、彼女の森川亜紀に呼び出されていた。
そして、この台詞である。
「え、何で亜紀?僕のこと、嫌いになった?」
「ううん。私、翔真のこと今でも好きだよ。
でも、いやだからこそ、私たち別れないといけないと思うんだ。
ほら、私これからフランスに留学するじゃん?それで、そのままフランスで就職するかもしれないんだよ?
そうしたら私たち、遠距離になっちゃうよね?」
「そ、それは…。」
本当ならここで、「僕たち、遠距離になってもいい。何なら、僕がフランスに行ってもいい。」と言えば良かったんだろう。
でも、僕にはそんな勇気はなかった。
「…私のこと、追いかけてくれないんだね。」
「え、あ、いや、その…。」
「いいよ。私、それが普通だと思う。
誰だって、彼女が遠距離になったら不安になるし、追いかけていくなんてできないよね。
ましてや私の場合は、外国だもんね。翔真のこと、責めたりしないよ。」
「…。」
僕はこんな時、頭の中から言葉が出てこない。つくづく、僕はダメな男だと思う。
「だから私、考えたんだ。私がこのまま、翔真のことを縛りつけちゃうのって、どうなんだろうって…。
だから私、翔真のこと本当に好きだけど、翔真から卒業することに決めました!」
「卒業」という2文字が、妙に僕の心に引っかかった。僕も、そんな風に亜紀から「卒業」できる日が来るのだろうか。
またもや僕が次の言葉を発することができないでいると、
「じゃあ私、引越しの準備があるから。
元気でね。さよなら、翔真。」
そう言って、彼女は去っていった。