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チート防止策とパンケーキ

少しチートな能力で夏休みが彩られる……

8月某日、ボサボサ頭で、伊達メガネで猫背全開ないかにも冴えない感じがプンプンする男子高校生……俺、千歳快斗ちとせかいとは、ジリジリと照り返す熱に悪態をつきながら家路を急いでいた。

「ったく、なんで学校ある日に限ってこんなあちぃんだよ!やってらんねぇわ、今日誕生日だぞ⁈」

誕生日を引き合いに出す事自体おかしな話なのだが、気が狂いそうになるほどの猛暑だったから仕方ない。

おまけに汗で全身サウナ状態だったせいで体感が暑いんだか冷たいんだかわからん……

「たでーまぁ……」

ガチで溶けるんじゃなかろうかと思いながら家に転がり込む。

「ぅん〜……?」

ナメクジみたいに玄関で這いつくばっていると隣に手紙が無造作に置かれていることに気づいた。

(俺宛か……?)

よく見ると裏に赤い薔薇の……なんつーんだっけ……シーリングスタンプ?が押してあって下には筆記体でDear K.C.と綴ってあった。いかにも高そうな感じだ。

「部屋戻ってから開けるか。」

そうこうして部屋に着くと俺は早速冷房をガンガンにつけて手紙の封をとった。

「どれどれぇ〜?」

“Reset the human or Living boring?”

……文面はたったこれだけだった。

「んだよ……『人間やめますか、それとも退屈に過ごしますか?』って……子供騙しじゃないんだからさぁ、バカにすんなよな!」

俺が鼻で笑った瞬間に激しい頭痛が襲って来た。

「アァッ……!ァッィ!」

「ちょっと刺激が強すぎましたかね?」

「誰だ……俺にこんなことして……ただじゃ、おかねぇかんな……!」

痛みに耐えながら男を威嚇する。

「心配するには及びませんよ、すぐ消えますから。」

俺の悶え苦しむ様子を見てもなお平然としている男。

「なら、今自分が一番望んでいるものを願ってみてください。」

「そんなの、この痛ぇのなんとかしたいに決まって……って、あれ?……治った……?」

言うが先か、俺の頭には痛みの一片も残っていなかった。

「お前なんかしたか?」

「いえ、これは快斗君、あなたの力ですよ!僕はただ君の『世界の森羅万象を己の意のままにできる力』を覚醒させる手続きをしたまでです。」

「はぁ?そんな俺TUEEE的なラノベ展開あるわけないっしょ?」

「じゃあ、今何が食べたいか言ってみてくださいよ?」

あまりに男が挑発的に言うものだから俺もムキになって「何ですかぁ?お願いすれば口の中に生クリームとシロップウザいぐらいかかった甘ったるいパンケーキでもぶっこまれるのかなぁ?」と超大げさに言ってやった。ここまですればこの力とやらが嘘であることの反例になるだろう。

「ほぉら、なんも入って……うぶぅっ⁈」

口の中に吐きそうなほど甘いシロップと生クリームのもったりとした食感が広がっていく。

この既知感はまさか……!

「快斗君の口の中には何がありますか……?」

男はニタニタ卑しい笑顔で俺に向かって勝ち誇った顔をしていた。……悔しいけど、この現実を受け止めるしかない。

「ぱんへぇひ……」

俺は俯いたまま口を情けなくもごもご動かす。

「言ったでしょ?快斗君の願いは全て現の理となるんです。全ては願いの指し示すまま……思うは易しでなんでも叶うんです。」

完璧すぎるラノベ展開、俺TUEEEだった。

それを自覚した瞬間、俺の背中を言い知れぬ感覚が駆け巡った。

「でもさ……この力は確かに俺の願い事全部叶えてくれんのかも知んないけど、逆に突発的に感じたことも本当になっちゃうんだろ?」

「……と申しますと?」

「死ねって思ったらそいつは本当に死んじゃうんだよな……?だとしたら、俺怖くて……思うは易しでとんでもないことになったら俺……責任取れねぇよ……!」

本当に『全て』叶うのなら、少し頭をかすめた感情も全て現実になることになる、突発的な憎悪で殺すことだって、犯罪者になることだって出来てしまう。そう思ったら最後、まるで自分がその力を持つ者の怒りを買ったように戦慄して何もできる気がしなかった。

「なんと聡明で他人思いな方だ……喜びもせずに第一声が危険性に慄く悲鳴とは……安心なさい、その為に僕が来たんです。2つのルールを引っさげて、ね?」

男は恐怖に咽び泣く俺を抱き寄せて頭を優しく撫ぜた。

「1つは僕以外の誰にも力を使っていることを見られてはならないこと、(力の口外は可能)2つは、人の命を脅かすような願いを宿さないことです。もとい、2つ目は今の言動を聞けて一安心ですがね。この2つさえ守れば己の私利私欲を肥やし続けようが、誰かの為に奉仕しようが快斗君の自由です。しかし、破ればあなたは、死にます。それがあなたが嫌う俺TUEEEにしないための下方修正です。」

なんか最後に物騒な言葉が聞こえたがそうしてもらえることが最善だと思えた。

「守るよ、死にたくないし。」

俺は深く頷いた。

「僕は魔法界の住人、ロクルト・バーナムです。快斗君、この力と魔法界を行き来できるMパスは君への誕生日プレゼントだと思ってください、特典に僕付きで。」

バーナムは改めて会釈をした。

「ラノベによくある居候展開……どこまで忠実なんだよ!」

「快斗君の見た目もラノベ主人公感出てますし、これも運命ですね。僕と一緒に他人より少し強めな生活始めましょう!」

「最初のは余計だ!……にしても、変な誕プレもらっちゃったなぁ、まぁ、楽しめそうだけど。

じゃあ、今度は特大ステーキでもいっちゃおうかなぁ…!……美味い!」

「そんないっぱい食べてるとデカくなりますよ?カロリーは普通にかかるんですから。」

「現実突きつけんなよ、せっかく楽しんでんだから……萎えるだろ……?」

こうして、他人より少し高スペックな現実世界ライフが始まったのだ。さぁ、夏休みはまだあるし、次はどんな形でこの力を堪能しようか……?

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