悲鳴
雪の降る寒い日、思いのほか用事が長引いてしまったので、ホテルに泊まることにした。
幸いなことに近くの安いホテルが空いている、私はすぐさまそこに向かった。
チェックインを済ませ部屋に入った私は、疲れていたせいかすぐにベッドで眠ってしまった。
しかし安眠することは出来なかった。深夜2時ごろだろうか、浴室の方から悲鳴のようなものが聞こえてきたのだ。
私は驚いて目を覚ました。
「この部屋には私以外誰もいないはずだ。ならこの悲鳴はなんなんだ…!」
そう思いつつ怯えて布団に隠れていると、数分後にそれは止んだ。
そこで恐る恐る浴室を見に行ったが、そこには全く何も無かった。
「ちくしょう、ここは霊が出るホテルだってのか?」
こんなところで寝るなんて出来ない、部屋を替えてもらおう。
私はすぐにフロントへ向かい、このことについて話した。
するとスタッフはこう言ってきた。
「申し訳ありません、お伝えし忘れていました。あの部屋のシャワーは調子が悪くてですね、寒い日の夜には水が出て悲鳴のような音が鳴ってしまうんです。」
よかった、怪現象の類ではないのか。
私は部屋に戻ると安心してすぐに眠った。
その後は当然何事もなく、無事に朝を迎えた。
私はチェックアウトを済ませ、帰路についた。
そして駅へ向かうタクシーに乗っている時、ふと思い出した。
「そういえば浴室を見たとき本当に何もなかったよな。そう、床が濡れてすらいなかった…」