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みんなで説明会

 王の間に集められたのは召喚された私たち、異世界人五人と関係者たち。


 アップスタイルにメガネ姿で落ち着いた装いなのは顧問の景子先生。

 ふわふわのティアードドレスに負けないくらい可愛らしいのは輝帆の彼女、一年生の美月ちゃん。

 もともと薄い茶色だった髪が今は金色、しかも碧の瞳になってしまった親友の晴香。

 そしてショートヘアから突然ロングに、胸まで育ってしまった弟の輝帆。

 部屋の奥には壮年の王様、それから私たちをエスコートしてきた五人の王子と、ローブ姿の男性がいる。


「輝帆くん、どうして…?」


 同じ王宮にいたはずなのに会うのは初めてだったのか、輝帆の姿を見た美月が呆然とした声で尋ねる。

「美月、ごめん」

 輝帆は下を向き、ドレスの裾を握りしめる。


 異世界補正。真の自分に相応しい姿に。

 そんな言葉が私の頭をグルグル回って…


 子どもの頃の輝帆と重なり、ああ、そうだったのかと頷きたくなる。



 私と、輝帆。

 同じ日に生まれた私たちは、天然素材が好きな母の影響でいつも同じようなシンプルな服を纏って生きてきた。


 私たちが初めて隔たれたのは三歳、七五三のお祝いの時だ。

 私だけが着せられた赤い晴れ着に、輝帆はとても悔しそうな顔をして…それから似合わない、と暴言を吐いた。


 親族の結婚式や、ピアノの発表会。

 私が晴れ着を着るたびに、輝帆は聞くに堪えない言葉をぶつけてきた。


 今にして思えば表に出た言葉ではなく、輝帆の心の中にこそ本当の痛みが、暴言を吐かずにはいられない辛さがあったのだと思う。


 でも私は輝帆の奥底にあるものには向き合わず、彼の気に食わない服は着ない事で事態を乗り越えてきてしまった。


 両親もそうだ。二人とも良いお家で育った、いわゆるお坊ちゃま、お嬢様。

 今は普通の賃貸マンションに暮す私たちだけれど、育ちが良いせいか輝帆の暴言に耐えられない。

 だから輝帆の内心を慮ることなく、ただ気遣うことだけで怒りを抑えて乗り切ってきてしまった。


 私たち家族は輝帆を怒らせないためだけに存在する「チーム」だったのだ。



「輝帆、とっても似合ってるよ。…ごめんね、今まで輝帆が本当に着たかった服に、気づいてあげられなくて」


「姉ちゃん」

 輝帆は愕然とした顔で私を見て、それからぎゅっと抱きついてきた。


「俺の方こそごめんね、ずっと酷い事言って。似合わないなんて嘘だよ、ただ羨ましかっただけで、でもそんなこと言ったら変な奴だと思われそうな気がして…本当はただの嫉妬で、当たってしまっただけなんだ」


「輝帆くん…」

 美月ちゃんは未だに愕然としていて、話し合うことは多そうだった。



 杖の音が響き、室内の空気を一変させる。

 長いローブをまとった、銀縁メガネの男性がえへん、と語り始めた。


「えー、今回皆様を召喚させて頂いた、魔術師のツァハリアスと申します。簡単ではありますが皆様を召喚した理由、今後の取り扱いについて説明させて頂きます」


 最初にクラウスに聞いた通り、私たちが召喚された理由は王族との婚姻を結び、封印を結び直すために必要な聖魔法を使える子どもを産んでもらうため。そしてその子どもがこの国の新たな王になる。


 しかし五人の召喚は王国側でも予想外の出来事で、誰か一人が王族に嫁いでくれればそれで良いこと。

 異世界人はこの国では聖なる賓客として扱われるので、王族に嫁ぐ気が無くとも好きに過ごして構わないこと、などなど。


「はいっ!」


 私は手を上げて、一番気になっていたことを聞いた。

「本人が強く願えば元の世界に帰ることも出来ると聞いたのですが…?」

「ああ…」

 ツァハリアスが複雑そうな顔をした。


「確かに、皆様が強く願えば元の世界に帰ることも可能です。ただ、召喚の歴史は長く最近は神隠し、なんて言葉も有名になってしまいました。そのため異世界人の権利に配慮して最近では事故などで死ぬ間際の人間の魂だけを召喚させて頂いております。皆様のケースも正にそれで…ですから残された肉体が無事なら帰還することも可能なのですが、既に死亡している場合には記憶を失い元の世界で別の人物として生まれ変わる、輪廻の輪に戻ってもらうことになります」


「わ、私たちの体は?」

 確認してみましょうか、とツァハリアスは部屋に置かれた水晶玉を覗き込んだ。


「えーと、景子様、晴香様、理帆様の肉体は既に火葬されております。輝帆様と美月様は意識だけが戻らない、ということで病院で治療を受けておりますので…元の肉体に戻ることが可能なのは輝帆様と美月様のお二人だけ、ということになります」

「火葬って…」


 事故の時、七人乗りの車の運転席に景子先生、その後ろに輝帆と美月、最後尾に晴香と私が乗っていた。

 真ん中の二人だけが奇跡的に助かった、という事なのだろう。


 私と輝帆には他に兄弟がいない。美月ちゃんも確か一人っ子のはず。

 残された家族のことを考えたら、せめて二人には元の世界に帰って欲しいのだが。


「ごめん、俺は帰れない」


 硬い声でそう言ったのは輝帆だった。

「元の体には戻りたくないんだ。俺はこの国に残って使命を果たす」


「では、彼女を連れ帰ったこの私、第一王子アーベルが次代の王として、輝帆と共に使命を果たしましょう」

 金の髪、青い瞳で整った顔立ちの第一王子は輝帆と腕を組み、そのまま部屋を退室してしまった。



 それでいいの、と問いただしたいけれど輝帆のドレス姿を思うと何も言えなくなる。

 あの子はこの国で初めて、なりたい姿になれたのだから。



「私も…輝帆くんが帰るまでは、帰れません」

「美月ちゃん⁉」

 普段は大人しい美月ちゃんが、強い決意を感じさせる声で言い切った。


「では、そんな貴女を私が支えましょう」

 美月の脇に立つのは第二王子らしい。やはり、金の髪に青い瞳のイケメンさん。

 彼らも部屋を退室してしまった。



「婚姻という話でしたが」

 部屋の奥に立っていた景子先生が話しはじめる。

 隣に並ぶ金の髪の少年が第三王子だろうか。

「私は彼女たちの引率者で、彼とは年齢が違いすぎます。なのでその話は辞退させて頂きたいのですが、肉体を失い帰る場所もありません。なにかお手伝いできることはないでしょうか?」



 立ち上がったのは壮年の王様だった。銀の髪はわずかに白くなっているが、顔立ちは若々しい。

 三人の子を生した金の髪の王妃は今は亡く、独身だと聞いている。


「あなた方はこの国の賓客です。どうかお気遣いなく、自由に過ごして頂きたい。ただ、もしお手伝い頂けるならばこの国の学園についてご意見を伺いたいのですが」

「ぜひ!私に出来ることがあれば、喜んで」



 意気投合した様子の二人も部屋を立ち去って、残されたのは私と晴香、クラウスにイェルク、魔術師のツァハリアスだけになってしまった。



「えー、皆さま退室されてしまいましたが、この世界について補足説明をさせて頂きます。召喚の技術がありますのであなた方の世界の物品や書物等もある程度は手に入れることが出来ます。そんな訳で異世界チート醤油を知ってる俺すっげぇ!的なイベントは発生しませんのでご了承ください。なお、我が国は一夫一妻制です。奴隷も禁止されておりますのでハーレム等をご所望される方はどうぞすみやかにご帰還ください」


  …ツァハリアスさんにいったい何が。


 滔々と語られる補足説明に呆然とする私に、晴香が耳打ちする。

「よその国で召喚された人が、いきなり彼の婚約者とその国のお姫様と女性魔導士を指名して俺の嫁呼ばわりしたらしいわよ。その人も事故で亡くなってたんだけど、ツァハリアスさんに脅されて帰ったってさ」


 こ、怖い。人生十七年で終了はイヤです。公的秩序は守ろう!


  思いがけないことばかりの説明会を終え、私たちは相談のために一度塔に集まることにした。


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