違う世界のお姫さま
クラウス視点です。
泥沼に落ちている女の子を見つけた時はマジかよ、って感じだった。
ここに巨大な底なし沼があるのは有名な話で、獣だって近づかないような場所だ。だからここに異世界人が召喚されると聞いた時は正直信じられなかった。
他の星印は妖精の花園とか王宮の図書館とか学院の前とか、それらしい場所に付けられていたし。
だからまさか俺が召喚された異世界人の女の子を救うだなんて、そんな物語みたいなことある訳ないと思ってた。
王位継承権なんて言われても、正直傍系の俺にはピンとこない話で。
将来は父親の後を継いで領地を管理して、細々と暮らしていければ万々歳、なんて地味な未来を思い描いてた。
…まぁ母親似の怖い顔が災いして、可愛らしい女の子からは軒並み話しかける前から拒絶、みたいな扱いだったから正直跡継ぎについては考えたくもなかったけど。それでも二人の母親似のアマゾネスな姉たちはなぜかちゃんと嫁に行っていたので、そこから養子を貰えばなんとかなるはずだし。
ところが泥沼に落ちていた理帆はめちゃくちゃ華奢で清楚で可愛くて、しかもこんな女の子が初見から怯えないで笑いかけてくれる、なんて子どもの時以来だった。
…そこから、少し欲が湧いた。
今の自分の立場に不満があった訳じゃない。
でももうちょっと地位があれば、爵位が上なら。
自分が今より凄い人間なら、この子をもっと幸せに出来るのかも知れないと。
もしかしたら、隣に立てるのかも知れないと。
理帆はありあわせの食事に、たった一枚の毛布に笑ってくれる女の子だったけれど。だからこそ、自分の不甲斐なさに腹が立った。
きっともっと、彼女に相応しい場所が、扱いがあるはずで。
そしてそれを差し出すのが自分でありたくて。
…結果、不甲斐ない自分ですいません、と理帆に詫び言ばかりを告げる日々だったけど。
それでも彼女はいつも笑って、そんなことないよと励ましてくれて、私なんかと己を卑下してまで、俺のことを立ててくれて。
こんな風に胸の鼓動を感じるような幸せやときめきを、それから息苦しくなるような嫉妬や寂しさをくれる女の子は初めてだった。
理帆と会うまでは、当たり前の日々がずっと続くのだと、それが幸せなのだと信じていた。
今は大事な人を失って、食べられない、寝られなくなった理帆の気持ちがよく分かる。
彼女を失ってしまったら、俺もそうなるだろうから。