九六 有力者にお伺いを
応接室の扉が開かれ、中に通されると、再び椅子に座って待つように促された。
ティナ達は、今度は歩き回ることなく、大人しく待つことにした。
ティナ達が期待したのは、「扉を開けるとウェレア様がお待ちしている」という状況だったが、更に待たされる状況に、さらに緊張感が増してしまった。
「さて……どうしよう……?」
「とりあえず、向こうの出方に任せましょう。エルルーアはどうする?」
「私は、姉さんとエレーシーさんに任せようと思ってるけど……ほら、そうは言っても、私は軍では3番目だし、あまり出番はなさそうな気がするから……」
「そう……私達も初対面だし、ミティリアが唯一の便りだから、何とか宜しく……」
「え、え……ええ、私も、ルビビニア町長として何とかウェレア様に認めてもらわないといけませんし……」
「そうね、軍の介入も、ミティリアの町長就任も話しておかないと……お、来られたみたいよ」
四人で話すことの打ち合わせをしていると、再び部屋の扉が開かれ、二人の女性が姿を表した。
一人はこれまでに出会ったミュレス人では見たこと無いような豪華な服を身に纏い、もう一人はシュビスタシアでも見たような、天政府人に仕えているミュレス人と同じような服を着て、その女性の後ろを付いて歩いてきていた。
ティナ達は、その方の放つ荘厳さに思わず立ち上がって迎えた。
「こんにちは、ウェレア様」
「これはどうも、ミティリアさん。貴女がこれほどたくさんの方をご紹介下さるのも珍しいですわね」
ウェレアは優しくはにかみながらミティリアを受け入れた。
「突然の訪問で失礼いたしました。あ、こちらは、ティナ・タミリアさん」
「……あ、はじめまして」
ティナは雰囲気に呑まれていたところに突然紹介されて驚きつつ、にこやかに挨拶することができた。
「はじめまして」
「そして、こちらはエレーシー・ト・タトーさん」
「はじめまして」
エレーシーはティナの様子を見ていたからか、一見落ち着いた様子だった。
「はじめまして。あら、あなたも『タトー』の姓を戴いているんですのね」
「はい、タトーです。こちらでは珍しいんでしょうか……?」
「他の地域の方では、たまにお目に掛かりますけど、このルビビニアやディアゴリアではあまり見掛けない名前ですわ」
「なるほど……」
エレーシーは、この短い言葉の中でも、気に留めてくれて何となく嬉しく思った。
「えーと、そしてこちらが、エルルーア・タミリアさんです」
「どうも、はじめまして」
エルルーアは、普段通りにすました顔で手を差し出した。
「はじめまして。貴女は、こちらの方と姉妹なんですの?」
「ええ、そうです。私の姉です」
「なるほど、姉妹で……ルビビニアへ?」
「まあ、姉さんとエレーシーさんに付いてきたようなものですが」
「なるほど……」
ウェレアは若干の苦笑いを浮かべながらエルルーアとの挨拶を済ませ、ミティリアの方を向き直した。
「それで、こんな大所帯で来られたということは、何かありまして?」
「はい、私もですけど、彼女からもウェレア様にご用件がございまして……」
「あら、ティナさん……だったかしらね。何の用?」
ミティリアはウェレアの様子を伺いながら、恐る恐る本題を切り出そうとしていた。
「えっと……彼女達は、私達ミュレス民族が自立するための解放運動をしていまして……」
「ふうん、解放運動……」
ウェレアは一旦、口に手を当てて、興味ありげに話に耳を傾けた。
「彼女達は自ら『ミュレス国』という国を立ち上げて、天政府人と戦ってまして、それで、昨日ですね、ルビビニアの町役場を陥落させまして……」
「陥落?!」
ウェレアはその言葉を聞いて目を丸くした。
「はい、昨日、私達ミュレス国軍は天政府軍と交戦し、町役場を占拠しました」
エルルーアはティナ達よりも先に自分達の功績をウェレアに報告した。
「それは……まあ……ご苦労様……」
これを聞いたウェレアは多少エルルーアに気圧されたように、少し笑みを浮かべながら成果を讃えた。
「あ、それでですね。そこでこれまで天政府人が担っていた『ルビビニア町長』の職なんですが、私がミュレス国軍総司令官から指名されましたので、そのご挨拶にと参りました次第で……」
「うん、町長……?」
ウェレアはミティリアの言葉に、また戸惑いを見せた。
「それじゃあ、今日からは貴女がルビビニアを統括する、と?」
「え、いや、まあ、あの、えーと……」
ミティリアはウェレアの一言を聞いた瞬間、一気に血の気が引くとともに、身体が熱くなるように感じ、うまく回らない頭を必死に回しながらも、ティナに目線で助けを求めた。
「ええ、確かに、これから当分の間、ミティリアに町長、即ち町の代表として務めてもらおうと思っています。私が、ミュレス国軍総司令官として任命しました」
「ああ、なるほど、貴女がその、総司令官なんですの?」
「はい」
ティナは話しているうちに、ウェレアが表情を曇らせているのに次第に気づき始め、次なる話に早く入らねばと考え始めた。
「あの、ウェレア様がルビビニアで様々な面でご貢献をされていることは、ミティリアから聞きました」
「そういって下さると嬉しいけれど……」
「ミティリアは、ルビビニアの職人や商人とも通じているだけでなく、天政府人との交渉も行った経験があると聞きました」
「まあ確かに、天政府人との交渉には、いつもメノドーさんに任せてましたわ」
「そう聞きましたので、これから町に駐在するミュレス国軍を指揮することになる町長としては、天政府人の事をよく知っている人の方が、という訳で、ミティリアを指名したのです」
「なるほど……あいつらの事だから……そうですわね」
「そして、ウェレア様には是非、ミティリア町長を様々な面で補佐する相談役として、町役場に来て頂きたいと思っております」
「私に……?」
「はい」
ティナの突然の提言に、ウェレアはまた戸惑いの表情を見せた。
「となると……何か特別な事をしなくてはいけなくて……?」
「それは、ミティリア次第だけれど……」
ティナは、ミティリアの方を見て発言を促した。
「え……あ、そうですね……特に変わりはありません。いつものように、互助会や交渉などにお力添えいただければと思いますし、金工職人の互助会長としてももちろん、今までのようにしていただければと思います。そして、その……町役場に一つ、ウェレア様のお部屋をご用意致します」
「なるほど……そこまでご用意されてるのでしたら、私も断っては失礼ですわね」
ウェレアは少し照れた様子で少し機嫌を取り戻したようだった。
「ありがとうございます!」
ミティリアは、身を少し低くして、ウェレアに差し出された掌を両手で受けた。
「さて、どうやら話も一段落付いたようですわね。皆さん、お座りになって話を続けましょう。ネル、皆様にお飲み物を」
「承知致しました」
ネルと呼ばれた女性は返事をすると、さっと部屋を出ていった。それを見たウェレアは、椅子を手で指し、各々着席するように促した。




