九三 副町長
「ただ、やっぱり、私一人でこの町を仕切るのも難しいと思いますので、誰かを側に置いておきたいんですが……」
ミティリアはまだ不安があるようで、早速ティナに相談を持ちかけた。
「え? ええ、まあ、そうでしょうね。アビアンも、トリュラリアの町長をしていた時は大変だったみたいだし、見たところ、その何倍も大きなこの町では、なおさら相談役も必要よね……ええ、もちろん良いわよ。貴女が信頼できる方を側に置いておいて」
「ありがとうございます。それじゃあ……エルム、どう?」
ミティリアは、彼女の側でずっと一連の話をじっと黙って聞いていた妹に突然、副町長の大役の話を持ちかけた。
「えっ、私?」
「ええ、やっぱり私が一番信頼しているのは、エルムだから、ね」
「ミティ姉さん……」
「それに、ほら。貴女は何かない限りはこの町から出る用事はないでしょう? だから、エルムが一番いいと、私は思うよ」
「そう、ミティ姉さんが言うなら……」
「ありがとう、がんばっていきましょうね」
メノドー姉妹は、お互いの決意を確かめ合うように、改めて手を握り合い、抱きしめあった。
「それじゃあ、私達は町役場にいるから、準備が出来たら町役場までに来てね」
ティナは、二人の余韻を妨げないように優しく告げると、ミティリアの肩をひとつ叩き、家をあとにした。
「町長を務めてくれる人がすぐに見つかって良かったわね」
レルメナとも別れ、町役場に戻る途上で、ティナはほっと胸をなでおろした。
「結構大きな町だし、人脈もないとこれからも大変だね。ここはワーヴァの知り合いがいたから何とかなったけど……」
「そうね……この前も言ったけれど、これからも進軍していく先々でこういう問題は起こるだろうし、何か考えないといけないわね」
「西側は……そういえばフェルフならある程度、人脈がありそうだけど……」
「フェルフね……フェルフなら職業柄、全国を歩き回っていただろうから、知り合いも多いとは思うけど……やはり、兵士の皆の知り合いとかにも頼らないといけないことになるんじゃないかなと思ってるわ」
「そうだね……」
「ともかく、この町のことについてはミティリアに全て任せましょう。やっぱり、私達はこの町では『異邦人』だわ」
「『異邦人』か……そうかもね」
エレーシーは、例の教科書に書いてあった地図を頭の中で思い浮かべながら、これから先に待っているまだ見ぬ街々に思いを馳せながら、町役場へと続く道を上がっていった。




