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九二 メノドー家

 エールメネアの家は、そこから坂道を登る形で約10分間歩いたところにあるとのことだったので、街の様子を知れることもあり、皆で連なって歩くことにした。

「その、ミティリアさんって人も、エールメネアさんの家に一緒に住んでいるの?」

 ティナは、ふと頭に浮かんだ疑問をレルメナに問いかけてみた。

「うーん、多分、一緒に住んでいると思いますよ。たまに家の話の関係で、ミティリアさんの名前出てきますから……」

「なるほど、今日、二人だといいわね。その方が話が早いわ」

「そうですね……」

「エールメネアさんは、姉思いだったりする?」

 二人の話の間に割って、エレーシーが話しかけた。

「姉思いかどうかは分からないですけど、仲はいいと思います。たまに話しの中に出てきますし……あ、ここですね」

 エレーシーは、商人の互助会長と、街の職人にも一目置かれている有力者の家がどんなものか興味があったが、レルメナの家と同じく、白壁の2階建ての家であった。

「こんにちはー、レルメナ・ルベルディアです。メノドーさん、メノドーさん、いらっしゃいますか?」

「はいはーい」

 レルメナが扉を叩くと、すぐに向こうから返事が聞こえた。

「レルメナ、また互助会?」

「いや、実は、お姉さんに用があって……」

「ミティリア姉さんに? 貴女が?」

「いや、私じゃないんですけど、その……お姉さんにちょっと相談を……」

「うん? 姉さんに相談?」

「まあ、私では無いんですけど、彼女達が……」

「彼女達……あっ」

 エールメネアは、レルメナに紹介されて初めてティナ達に気付いたようで、他のミュレス人達とは違う出で立ちに圧倒されたようだった。

「ああ、待ってて。姉さん呼んでくるね」

 そう言うと、すかさず扉の取っ手をレルメナに預けるように持たせ、小走りで家の奥へ入っていった。

「どうやらいらっしゃるみたいね」

「うん、良かったよ。後は、そのミティリアさんが気難しい人じゃないといいね」

「そうね……有力者だもの」

 ティナもエレーシーも、どのような人なのか想像しながら待っていると、1、2分経ってようやくエールメネアが姉らしき人を連れて戻ってきた。

「ミティ姉さん、彼女達が会いたいっていう方達ですよ」

 エールメネアに紹介された彼女は、背はエレーシーよりも高いので見下げるような形で接されるものの、想像していたよりも物腰は柔らかそうで、それほどの威圧感は感じられず、エレーシーはひとまず安心した。しかし逆に、本当にこの人がこの街だけでなく、ディアゴリアにまで影響力があり、天政府人とも対等に話の出来るような胆力のある人物なのだろうかと、失礼とは思いながらも、疑問と新たな不安感を抱き始めていた。

「貴女がミティリア・メノドーさんですか?」

「はい、私ですけど」

「会えて良かったわ。私は、ティナ・タミリア。新興ミュレス国軍の総司令官です。宜しくお願いしますね」

「え? ミュレス国? 総司令官?」

「こちらの方々は、我々ミュレス民族が天政府人の支配から解放されるように戦ってくれている方々なんです」

「ああ、それは知ってる。ルビビニアでもディアゴリアでも話に上がるし。まあ、でも、確かに最近、天政府人の要求は厳しくなって来てますね。交易に対してはもちろん、日々の生活に対しても……」

「皆さんのおかげで、今日から町役場は我々ミュレス人が支配するようになったそうですよ」

「え? そうなの?」

「街道の警備ばかりに集中していて、街中の防衛が弱かったのよ」

「それは、お疲れさまです」

 ティナ達の努力を改めて知り、ミティリアは握手をして労をねぎらった。

「ありがとう。それで、問題は『誰が町役場を動かすのか』という事なのよ」

「うん……?」

 ミティリアはそれを聞いた瞬間、妙な空気の変わり目を感じた。

「誰が町役場を動かすのか……?」

「つまり、『誰がルビビニアの為政者になるのか』、『誰がルビビニアの市民を導けるのか』ということよ」

「うん……うん?」

 ミティリアはこの次の展開を見越したようで、少し身構えつつ話を聞き続けた。

「だから……」

「ちょっと待って下さい」

 ティナがようやく本題に入ろうとした瞬間、ミティリアが話を遮った。

「私の考えすぎでしょうかね、その話が私に来そうな気がしたんですけど……」

「あら、なかなか鋭いわね」

 ティナはその言葉を待ち望んでいたかのように微笑んだ。

「ええ、あなたにお任せしたくて、それで会いに来たのよ」

「貴女達のお仲間から選んではダメなのですか?」

「最初はそういうようにしてきたこともあったわ。だけど、そうすると、肝心の軍を動かす人がいなくなるし、それに、それぞれの街にはそれぞれの『性格』があるでしょう?」

「性格……まあ、確かに、ルビビニアとディアゴリアでも雰囲気は違いますし、こことシュビスタシアやポルトリテでも違うとは思いますけど……」

「だから最近では、それぞれの街から信頼できそうな人を探して、その人にお願いするようにしてるのよ。それに、街についてあまり知らない人に治めてもらうより、街のことをよく知っている人の方が良いでしょう?」

「それはそうですが……それが私ですか?」

「そうなの、数少ない私達とルビビニアに関係のある人を辿っていって、貴女に行き着いた訳なの。もちろん、貴女よりもよく導いてくれる人がいるなら、その人を紹介してくれて良いのだけれど……」

「私よりも適任な人、そう言われると……」

 ミティリアはあまり引き受けたくないのか、自信がないのか、頭の中で数十、数百人のミュレス人の顔を次々と思い浮かべ、自分よりも適任な者を探していた。

「有力者は……いるといえばいるけれど、町長としては……」

 ティナは「この街には、ミティリア以外にも有力者がいる」と聞いて、その人に任せるのではないかと少しハラハラしたが、町長としての適正があるかどうか疑問符を浮かべている様子を見て、少し安心した。「うーん、そうねえ……。町長としての役目を果たせそうな人となると……」

「ちなみに、貴女が思い浮かべる『有力者』について教えてくれないかしら?」

「ルビビニアの郊外にいらっしゃる、タトー家の方々です」

「タトー……」

 同じ名字を持つエレーシーがわずかに反応した。

「ええ。私が聞いた話では、数百年前、この町がまだ小さかった時、ミュレス人の中にも『貴族』と呼ばれる支配者階級の方々が存在していたようです。天政府人が本格的に私達を支配するまでは、全国を貴族の方々がミュレス人をまとめて政治を行っていたそうですけど、地上統括府が出来て天政府人が大勢、ミュレシアに入ってきてからは、貴族は政治の場から追い出されて、力を失っていったようですよ」

「へえ、そんな事があったのね。私達のベレデネアは、まだミュレス人が長を務めているからそんな感覚はなかったわね」

「シュビスタシアもそうだよ、ずっと天政府人が中心になってたから」

「ルビビニアは山の中だから、少し違うのかもしれませんね。それで、力を失ったとはいえ、私達ルビビニアに住むミュレス人にとっては、なんといいますかね、『象徴』的な存在ですから」

「象徴……」

「一応、いろいろと町の事を考えたりする時はご参加いただきますし、今も各業界との繋がりはありますし、特に金工職人の互助会には私よりも力はあると思いますよ、今も代表も兼ねてらっしゃいますから。それに、町の皆から尊敬もされてはいます。ただ、実際にその中から町の代表一人を選ぶとなると……」

「何か不安があるの?」

「大きい声では言えませんが、今の方はちょっと……お金の使い方が激しい方なので……」

「なるほど」

「お家の財政には特に口は出しませんけど、皆から集めた町役場のお金となりますと、やっぱり……」

「そういうこと。その他には、町の代表になってくれそうな人は思い浮かばない?」

「うーん……そうですねえ……うーん……」

 ミティリアは本当に自分よりも適していると思う人物が思い浮かばないのか、名前を出して変に大役を押し付けるのが申し訳ないと思っているのかは分からないが、再び腕を組みつつ俯き、苦しい表情を浮かべながらしばし唸っていた。

「ちょっと……すぐには思い浮かばないですね」

 ティナはそれを聞くと、また優しく微笑んだ。

「そう……それならやはり、貴女が町の代表になるのがふさわしいのかしら?」

 それを聞くと、ミティリアは少し眉をひそめて少し苦笑いした。

「そうですね……それしかないですかね」

 あまり乗り気ではない様子なのを見たティナは、ミティリアの背中に手を置いて安心させようとした。

「無理かもしれないけど、そう、あまり気負わないで。もし貴女よりも適したミュレス人が見つかったら、その人に町長の座を譲ればいいし、貴女がそのような人を育ててもいいわ。ともかく、私は貴女と話していて、貴女に任せてもいいかなと思ったから……」

「それなら・・・それなら、ちょっとやってみようかな……」

 ティナはその一言を待っていたかのように、言い終わるのも待たずに手をぐっと引き寄せて握りしめて何回も振り、思いの程を表した。

「ありがとう。そう言ってくれると嬉しいわ」

「困ったことがあったら、何でも言ってね」

 エレーシーもやっと緊張感が解れたようで、ティナの横から手を出してミティリアと握手をした。

「私からも、よろしく頼むわね」

「え、それじゃあ、私も……」

 エレーシーが握手をしたのを見て、エルルーアとアビアンもそれに続いてしっかりと握手をして、今更ながら軍幹部との挨拶を終えた。

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