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九一 新たな町長が満たすべき条件

 エレーシーとティナは町役場を奪還するとすぐに、天政府軍が行っていたような警備体制を敷くよう兵士に伝えつつ、このルビビニアの有力者を探していた。

 これまでの町では身内の中から市長や町長を選び出していたが、既に、それに値する者達は、軍においても重要な役割を持つものばかりになっていたからだった。

「ティナも、アビアンも、この街に誰か知り合いはいないの?」

 エレーシーは眉を若干ひそめながら聞いた。

「残念だけど……」

「うーん、私も、ずっとシュビスタシアから出てなかったからねえ」

「うーん……それじゃあ、仕方ないか……ワーヴァは?」

「え、私ですか? 私も、うーん……確かに、何人か、ルビビニア出身の人と話をしたことはありましたけど、でも……」

「有力者は無し……か……」

 エレーシーは、あからさまに落胆した表情を見せたが、すかさずワーヴァが一言付け足した。

「いや、でも、その方が誰か、街のミュレス人の『取りまとめ役』を知ってるかもしれませんよ?」

 それを聞いて、エレーシーは途端に顔が明るくなった。

「なるほど、確かに、私達も互助会の人づてにシュビスタシアの有力者を知ったりしたもんね。それで、その人の場所は知ってるの?」

「えーと、大体の場所は分かると思います。何回か荷物を発送したことがありますから、街路名とかを当てにすれば……」

「うーん、少し不安だけど……他に手がかりも無いし、それに賭けてみようかな」


「そういえば、その人って何をしている人なの?」

「私の知り合いですから、もちろん、商人の方です」

「商人の方か……偶然、この街に帰ってきていればいいのだけれど……」

「あっ、そうですね……いると良いのですけど……」

 そうこう話をしながら歩いていること数分、あっという間にお目当ての街路まで辿り着いていた。

「あ、この通りのあたりです」

「着いたのはいいけど、どうやってその人を探すのかしら?」

「うーん……ちょっと聞いてきますね」

 ワーヴァはそう言うと、直ぐにその近くの民家の戸を叩き、聞き覚えのあるその商人の名前を出して、家を聞いて回った。

「さすがに職業柄、こういう手は早いわね」

「やっぱり、彼女に兵士の管理を任せて良かったよね」

 エレーシー達がワーヴァの働きぶりを褒めている最中、そのワーヴァが駆け足で戻ってくるのが見えた。

「お、見つかったかな?」

「どう? どこか分かったかしら?」

「ええ、ばっちり分かりました。すぐそこの、あの家だそうです」

「それじゃあ、尋ねてみましょう」


 商人の住む家は、白い壁が映える2階建ての家であった。普通の街では大きめだが、この街ではよくある家のようだった。

 知り合いであるワーヴァが軍幹部達を代表して家の戸を叩いた。

「すみませーん」

 一時の沈黙が、軍幹部達の間に流れた。

 しばし待ってみたものの、戸の向こうからは、僅かな物音さえも聞こえてこなかった。

「いないのかな?」

「どうでしょうね……もう一度、叩いてみますね」

 ワーヴァは、少し焦りを覚えつつも、また、先程よりも少し強めに戸を叩いてみた。

「すみませーん。トリュラリアのワーヴァです。おられますか?」

 再び呼びかけ、少し待っていると、やがて家の中の方から物音が聞こえ始めた。

「物音がしてますね」

「求めている人だといいのだけど……」

 ティナも心配そうに待っていると、やがて戸が開き、一人のミュレス人が出迎えた。

「はーい」

 出てきた主人は、エレーシーと同じようなすっきりとした風貌の女であった。

「お待たせ、こんな所までわざわざ……ん?」

 彼女は、ふとワーヴァの後ろにいる3人の姿に驚いたようだった。

「ワーヴァ、一体、どんな……その後ろの方々は……?」

 彼女の頭の中には、無数の疑問が一度に湧いたようであった。

「あ、こちらの方々は、ミュレス国軍の方たちです。私もですけど」

「へ、へえ……ミュレス国軍……」

「こちら、総司令官のティナ・タミリアさんです」

「そ、総司令官……?」

 いきなりの話に全くついていけていないようだったが、ティナはワーヴァの紹介に乗っかるように、右手を差し出した。

「はじめまして。私はミュレス国軍総司令官をしています、ティナ・タミリアです。どうぞ、よろしく」

「あ、ああ、私は行商のレルメナ・ルベルディアです。こちらこそ、よろしくお願いします」

 二人が握手をすると、軍幹部達は次々と自己紹介をして挨拶を済ませた。レルメナも戸惑いつつ、挨拶に応じた。

「なるほど、貴女は行商なのね。私はミュレス国軍を創るまでは、村の作物を船で卸しに行っていたの。貴女は何を取り扱っているの?」

「私は、この街で加工した金物を売り歩いたり、卸したり、注文を受けたりしながら、ルビビニアと各都市を行ったり来たりしてますよ。ワーヴァには、トリュラリアの近くの街で御用を聞いてくれたり、仲介をしてくれたりしてたんです、ね」

「ええ、それで、知り合ったんです」

「なるほど、そういう事ね」

 ティナとレルメナがしばらく立ち話をしていると、やがてエルルーアがティナの服の袖を小さく引っ張った。

「姉さん、そろそろ本題を」

「ああ、そうそう。私が来たのには、理由があるの」

「え? あ、はい……?」

「私達ミュレス国軍は、昨日、このルビビニアを天政府人の手から奪還したのだけれど……」

「え、そうなんですか?!」

「ええ、それはいいの。だけど、私達は軍の指揮を執る役目があるから、このルビビニアの代表者になるわけにはいかないの。だから、この町のミュレス人で一番の……取りまとめ役みたいな人を知らないかな、と思って」

「取りまとめ役……」

 レルメナは、少し苦しげな表情を見せながら、ルビビニアに住むミュレス人を思い出し始めた。

「例えば、互助会の関係でもいいのよ。その、金物業者の互助会の代表とかをたどれば……」

「うーん……そうだなあ……」

 彼女が数分間悩んだ末に、一人の人物が浮かんだようだった。

「それなら……あの人が一番適役かな……」

「誰?」

「ミティリア・メノドーっていう人。ルビビニアやディアゴリアの商人の互助会の会長をしてるエールメネアの姉なんだけれど、その人がルビビニアにいつもいて、町の金物屋とか、金工職人さんとかと、私達商人の間を取り持ってくれていて、天政府人の役人とも話を繋げてくれたりしてくれてるって聞いたことありますね」

「なるほど、なかなかのやり手みたいだわ。それで、ミティリア・メノドーさんに会うのはどうしたら良いのかしら?」

「うーん……私はエールメネアにはよく会うんだけれど、ミティリアさんには会ったことないからなあ」

「そうなの……」

 レルメナがふと漏らした呟きに、ティナは思わず落胆した顔を見せた。

「あ、でも、こんな時だし、多分エールメネアもルビビニアにいるかも。彼女の家までご案内できますよ」

「本当? よかった。ぜひ、案内して欲しいわ」

「分かりました。そんなに遠くありませんから、早速ご案内致しましょう」

 そう言うと、レルメナは慣れた手つきで扉に錠をはめ、軍幹部達を案内し始めた。


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