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八四 新たな町を前にして

 内陸街道は、実に寂しい街道であった。

 ベレデネアを出発し、山間街道から分かれると、町はおろか、村すらなく、しばらく誰にも会わない、ある種孤独な行軍が続いた。

 それもそのはずで、ミュッル=アミト=ルビビニアへの道は、この内陸街道ではなく、ディアゴリアの西より北に上る、中央山地を縦断する街道が整備されており、ミュレス国軍が進軍中のこの街道は、地図上にはあるものの、ほぼ消えかけている街道であったからだった。

 連日、日中はところどころにある深い藪に悩まされながらも進んでいき、夜は冷たい森の中で野営し、過酷な自然と戦いながらも確実に西へと進んでいった。


 ベレデネアを発って約5日、ようやくある程度開けた場所に出てくることができたのだった。

 街中から立ち昇る湯煙は、ミュッル=アミト=ルビビニアの象徴であり、それを知るエルルーアは、内陸街道を歩く時は常にそれを道しるべとしてしながら進んできた。


「あの向こうがミュッル=アミト=ルビビニアなのね?」

 ティナは期待しながらエルルーアに尋ねた。

「多分、そうじゃないかしら。ルビビニアといえば、街の至るところから湯気が出ているのが特徴だって、聞いたことあるわ」

「じゃあ、多分、あれがそうね。さて、どうかしら関所は……あっ」

 ティナが木陰から町の様子を伺ってみると、入口のあたりに武装した天政府人が数十人で円弧状になり見張っていたのを見つけた。

 それを確認すると、ティナはすぐさま部隊を少し後退させて森の中に隠すよう、エレーシーやエルルーアに指示を送った。

「ど、どうしたの? いきなり、部隊を森の中に隠すって……」

「エレーシー、あそこに天政府軍がいる」

「え? ……あ、本当だ」

「シュビスタシアの時に比べてどう?」

「うーん、でも、あの時の数倍はいるような気がする……」

「そう……それは困ったわね……」

 目的の街に着き、またも戦闘になる事に覚悟を固めながら、急遽、静かに作戦を考え始めた。

「ここで留まっている時間は無いわね……さすがに、ここまで来てまた野宿というのも、皆、がっかりするだろうし……」

「そうだね、士気は確実に下がるよね……」

「とはいえ、玉砕覚悟で敵陣に突っ込むのも嫌だし……」

 ティナとエレーシーは、会話をしつつもあたりを見回して状況を把握しようとしていた。

 ミュッル=アミト=ルビビニアの東側、エレーシー達が隠れている茂みから天政府軍がいる門までの間には、明らかに人の手で整備したと思われる開けた草原が広がっているだけだった。

 ただ、その草原もそう狭いわけではなく、走り抜けたとしても、一、二分程度は掛かるように思われた。南北方向にも広く、門の中には鬱蒼と茂っている木々が見えていたとしても、門の外は坂の手前まで木が刈り取られて、よく見渡せるようになっていた。

「いくら内陸街道唯一の都市と言っても、これだけ警備しやすいようになってるの、街の規模を考えると少し過剰じゃないかしら……」

「そうかもね。まあ、それは仕方がないよ。見つからずに攻め込むのは、ちょっと無理そうかな……」

「あそこに立ってる兵士達も相当いるけど、他には隠れていないでしょうね?」

「こっち側にはいないと思うけど、どこかから出てきてもおかしくはないような……」

「門の向こう側にもいるかもしれないよ?」

「考えていたらきりがないわね……不意打ちには会いたくないけれど、ここで立ち止まっていても精神を消耗するだけだわ」

「ちょっと待って、エルルーア。もっとよく、現状を把握させて」

 ティナは逸る気持ちを抑えきれないエルルーアを制しつつ、天政府軍に気付かれないように周りを眺め始めた。それを見たエレーシーも、ティナを補佐するように、周りに何か役立つものや注意すべきものがないかを確認し始めた。

「なるほど、どうやら門とこちら側の茂みの間には何もないみたいだね。左右の草原も、ところどころ土が見えてるから身を隠すほど濃くなさそうだし……」

「ここから飛び出したら、門のところまで身を隠せないってことね」

「草がところどころ残ってるから、滑らないように注意しないとダメだわ」

「待って、このままでは特攻になってしまうわ」

「でも最終的にはそうするしかないんじゃないの?」

「そうかもしれないけど、ある程度向こうの戦力を削るか分散させるかして、危険を少しでも減らしておきたいのよ。何か、そういう案はないかしら……」

「うーん……天政府人に敵うもの……」

 エレーシーは、自軍の兵士達の戦っている姿を必死に思い出し、何とか最小限の犠牲で天政府軍に対抗できる手段を模索した。

「……やっぱり弓矢部隊の有効活用が必須かな……」

「あ、そうね。弓矢部隊を上手く使えないと難しいかもしれないわね」

 兵士達が心配そうに見守る中、幹部達はある程度は現状を把握できたと見なし、なるべく早く良い作戦を捻り出そうと、各々声を殺しながらそれぞれ唸りつつ自分の中で作戦を立て始めた。

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