七九 久しぶりの我が部屋
「統括指揮官、船着き場で働いていたんですね」
「そうだよ。天政府人の下で働いていたんだけどね」
「シュビスタシアの運送関係って、大体、天政府人が経営しているところが多いですよね」
「うん、元々、そういう全国的なところは、天政府人しか上に立てない決まりになってるみたいでね」
「そうなんですか?」
「まあ、そもそも私みたいな凡人には職業すら選択の余地が無いんだけどね。唯一、夜の仕事は別だけど……」
「もしかして、統括指揮官も徴用で……?」
「そう、うちの農家の働き手は、もう兄で十分だし、私自身、特に特殊技能のある職人って訳でもないし……そうなると、私の村みたいな地上統括府の役人が村長をやっているような村だと、そういう人から順番に連れてこられるんだよね」
「そうなんですね」
「そういう貴女は?」
「ああ、私は生まれも育ちもエルプネレベデアですよ」
「エルプネレベデアかあ、何をしてたの?」
「私は、家が食料品店をしてるので、そこでずっと働いてました」
「へえ、そんな貴女が、なぜミュレス国軍に?」
「やっぱり、天政府人との取引ですかね……天政府人を相手にすると、極端な値下げを要求されたりして、商売が成り立たなくなってきて……」
「分かるよ、数年前くらいから、急にミュレス人の扱いがひどくなってきてたからね」
「だから、家族を代表して、私が軍に入って、天政府人の圧力から脱しようと……」
エレーシーは、彼女が家族の期待を一身に背負ってやってきていることをひしひしと感じ、お互いに重責を背負っていることを再認識した。
「じゃあ、家族のためにも、自分のためにも、早く地上統括府を倒そう」
「そうですね……頑張ります!」
兵士の元気の良い返事に、エレーシーは頼もしく思いながら、懐かしき部屋に向かった。
ベッドが一つしか無いエレーシーの部屋では、かつて軍幹部達が寝床を共にしたように、二人で一つの寝床を共有した。
「狭い部屋で、ごめんね」
「いえいえ。シュビスタシアに自分の部屋があるだけで、すごいと思いますよ」
「そう……そうか、そうかな」
エレーシーは少し嬉しく感じた。
一晩を共にし、護衛を務める彼女は、ネルメリア・ト・ルヴェーリルと名乗った。
エレーシーは、自らと同じ古姓を持つ彼女にいくらか親近感を覚えた。
「明日も、昨日の続きをしないといけないよね?」
「そうですね、まだ、もう少し仕分けをしないと」
「武器の仕分けかあ……」
エレーシーは、一言呟いて布団に潜り込んだ。
「ティナの言う通り、もっと兵士が集まれば、一人ひとり楽になるし、お互いに守れるようになると思うけどなあ」
「いくらミュレス人とはいえ、民族のために命を落としてもいいって考える人って、少なくはないですけど、皆が皆そうって訳でもないですものね」
「そうだよねえ。そもそも、そういう人は既に我軍に入ってるし、それも『どうせ天政府人に一生虐げられているよりは、自分から一旗上げて刃向かって死ぬほうがマシ』って自棄な考え方してる人の方が多いだろうしね」
「なるほど……そう考えると、シュビスタシアのように、天政府人から奪い返した街から募るのは難しいかもしれませんね」
「うーん、それもそうかなあ……ティナやアビアンは、今後は『再び天政府人の手に渡ることがないよう、ミュレス人の街の自治はミュレス人で守ろう』という名目で集めようとしてるけど」
「ああ、それなら……」
「無い話じゃないしね、天政府人の再奪還」
「ああ、確かに、私達のような軍の主部隊がこの街を離れた後に天政府軍が襲ってきたら……」
「だから、これまでに奪還してきた場所には、小さな村でも私達の兵士を少しずつ置いてきたり、その街で雇ったりしてきたんだけど、こんなに広い街となるとね……」
「なかなか、悩みはつきませんね……」
「まあ、上にいるのも所詮素人だしね。私は計量官、ティナに至っては元々、船頭で、こういう軍事とか政治とかには全く触れてないから、そういう所は、天政府人のやり方を多少は学んでいかないといけないとは思ってるんだけれど……」
「そ、そうですね。私も、エルプネレベデアの町役場に行ったことすらほとんどなかったくらいですから……」
「私も昨日、初めて市役所の中に入ったよ」
「そこから、全部自分達でするのって大変そうですよね」
「そうだね……ところで貴女は、この街の治安管理、市役所の仕事、行軍、どれがやりたい?」
「……え?」
ネルメリアは、突然選択肢を与えられ、困惑した。
「え、そうですね……どうしようかな……それなら、やっぱり行軍に参加したいですね」
「そう?」
「やっぱり、天政府人を倒すために参加してますし……」
「なるほど……それなら、早く寝ないとね」
「といいますと、すぐに何か?」
「まあ、方針が決まったら、すぐに出ることになるだろうね。あまり長々とこの街にいても、天政府軍に立て直す時間を与えるだけだし」
「そうですね……」
「それじゃあ、おやすみ。あ、一応護衛の意味でエルルーアが貴女を選んでるみたいだから、防具と武器は装備したままにしておいてね。寝苦しいとは思うけど……」
「はい、分かりました」
エレーシーは一通り話を終えると、ネルメリアが扉側になるように布団に潜り直し、眠りについた。




