七七 懐かしい雰囲気
まだ夕御飯の時間にはまだ早く、いつも行くと人でごった返していた店も、エレーシーが知る中で最も客がまばらであった。
「これ、今、客がまばらなのは私達のせい?」
エレーシーは、顔見知りの店員に気軽に聞いてみた。
「うーん、エレーシー達のせいかどうかは知らないけど、少し前の外出制限令が出てからは、ミュレス人の客足がパッタリかな」
「あ、そう……まあ、じきに戻るよ」
「そうだといいなあ」
挨拶代わりの短い会話を交わすと、さっさと部屋の奥の方へと進み、一角の4卓を独占した。
「さて、貴女達、何を頼んでもいいけど、役割は果たすのよ」
エルルーアは、一瞬鋭い眼差しで連れてきた兵士達眺めながら、自分の周りの卓に座らせた。
「は、はい!」
「あ、何でも頼んでいいってエルルーアは言ったけど、先は長いから、ね」
「姉さんは出せなくても、統括指揮官が出してくれるんじゃない?」
エルルーアに突然振られたエレーシーは、少し目を泳がせて少し考えた。
「よ、よし、私に任せて!」
エレーシーは左手で拳を上げながら、右手でアビアンの袖を摘んでで助けを求めた。
「おっ! さすが統括指揮官!」
兵士達はその言葉に拍手で讃えた。エレーシーに助けを求められたアビアンも、優しい顔で兵士達と一緒になって拍手をしていた。
「さあ、さあ、皆が解放を祝いに押しかける前に、注文しちゃいましょう」
「はい! えーと……」
軍幹部達と兵士達は、壁に掛かっている献立表を見ながら、各々注文を考えた。
それぞれの前に注文した料理が並び切った頃には、店内には夕飯を取りに市民達が続々と集まっていった。
「さて、皆の料理が揃ったわね。それじゃあ、頂きましょうか」
ティナの言葉を皮切りに、兵士たちは一斉に手を付け始めた。
「まあ、被害は甚大にせよ、一先ずはこの街を取り返せたんだから、何はともあれ一つの区切りはついたじゃない」
ティナはエレーシーの横に座り直し、減った水を補充しながら慰めの言葉を掛けた。
「うーん、まあ、そうか。そうだね」
「そうよ。それに、これもまだ道半ばよ。地上統括府から、全ての統治を私達ミュレス民族の手に取り戻して、仲間を天政府の圧政から解放する。それが、私達の目標なんだから……」
エレーシーは、腕を組んで少し考えた後、ティナに向かって軽く頷いた。
「そうだね。そのためには、やっぱり私達幹部が引っ張っていってあげないといけないよね」
「やっぱり、それが必要だわ。まあ、エレーシーも一市民としてのものもあるだろうし、必要以上に背負い込むこともないんじゃないかしら」
「そう?」
エレーシーは僅かに「そうかな」という顔をしたが、ティナの言う通り、四六時中考えていると疲れる事だし、やはり支配領域を広げられたことは喜ぶべきだと考え直し、とりあえずはこの戦果を味わおうと、料理に一口手を付けた。




