七六 天政府人に成り代わり
それぞれ、これまでの戦没者達の冥福を十分に祈り、やがて各々下山すると、国軍幹部達は市役所に集まった。
市役所には、エレーシーの目論見通り、地上統括府や天政府にまつわる資料が多く保管されており、天政府人がこれまで行っていた市政を自分たちで行うために、ティナやエレーシーが選任した臨時の市幹部達に、そのそれぞれを整理して読んでおくように伝えた。
また、丘から帰って来て暇を持て余していた兵士達に、治安管理所の捜索を命じ、少しでも使える武器があれば、後で遠征者と駐留者で分配するために市役所に集めさせた。
さて、自分たちはといえば、市役所の中にある全国的な街道を描いた簡素な地図や、天政府人達がどこから集めてきたのかわからない、他の街の地図、地上統括府からの手紙、そして天政府軍に関わる資料など、市役所に保管してあるありとあらゆる資料を引っ張り出してきては、手分けをして読み進め、とにかく、これからの戦いをより優位に進めるための話し合いに終始した。
昼を食べる間もなく、資料を集めては話し合い、足らないと思うところが出てくればまた資料を探すという作業を繰り返していた。
そうこうしている内に、今日もまた日が沈もうとしていた。今後の計画を立てることに集中していた国軍幹部達は、部屋が暗くなって初めてそのことに気づいたくらいだった。
「ふう……ちょっと、休憩しようよ」
一番に音を上げたのはエレーシーだった。
「そうね、あまり詰め込みすぎても、余計に変な方向に行くだけだわ。また明日にしましょうよ、姉さん」
「あら、もうこんなに日が暮れてたのね。確かに、あまり考えすぎるのも、疲れて良くないわね……」
エレーシーとエルルーアのお願いに、ティナも応じた。
「それじゃあ、少し早いけど、皆で晩御飯を食べに行きましょうか」
「そういえば、昼食べそびれてたなあ」
「いいね、食べに行こう」
エレーシーは、ティナ達3人を先導しながら下へと降りていった。
市役所を出ようとしたところで、エルルーアは1階の玄関先で武器を仕分けしていた兵士達に声を掛けた。
「ねえ、私達、これから夕飯にしようと思うんだけど、貴女達も一緒にどう?」
「え? いいんですか?」
「いいわよね、姉さん」
「ええ、私はいいけど、エレーシーはどうかしら?」
「え? うん、まあ、いい……よ」
「そうと決まれば、武器は1階の監視役に任せて、行きましょ」
「は、はい!」
兵士達は若干緊張しつつも、隠しきれない笑みをこぼしながらエレーシー達と一緒に市役所を出た。
軍幹部の3倍もの人数を従えながら、どこで食べようかと考えつつ繁華街の方へと足を伸ばしていった。
「どこがいいかしらね」
「そうだなあ、この辺りのお店にしようか?」
「この辺り? この辺り、たくさんあるけど……」
「うーん、よし、あそこにしよう!」
エレーシーがえいと決めた店は、その繁華街では大きめの大衆食堂であった。
「ああ、ここかあ」
そこは、シュビスタシア出身のアビアンのみならず、ティナも知る店であった。
「懐かしいわね」
ティナは、僅かに顔を綻ばせながら店の中へと入っていった。




