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ミュレス帝国建国戦記 ~平凡な労働者だった少女が皇帝になるまで~  作者: トリーマルク
第四章 急速進攻 ・ 第一二節 シュビスタシア奪還計画
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七五 夢を叶えられなかった仲間の思いを胸に


 エレーシーの下には、次々と儀式終了の連絡をしに兵士がやってきた。エレーシーはこれに対して、自分が埋葬した墓標の前で座って待機しておくように命じた。

 やがて、全ての墓標の前で兵士が待機したのを確認すると、徐に兵士達の前に立った。

「兵士の皆、今回の戦いで、シュビスタシアの中枢である市役所を占領し、天政府による支配を脱することが出来ました。しかし、この度、105名の仲間が命を落とす結果となってしまいました。私は統括指揮官として、良くも悪くも、戦いの結果は私達幹部に責任があると思っています。今回の多数の犠牲者には、私も、非常に申し訳なく思います……」

 エレーシーは兵士達に、多くの犠牲者を出したことに対して謝罪の言葉を述べると、後ろからティナに背中を叩かれ、話したげな顔でエレーシーを見つめた。

「あ、じゃあ、総司令官、どうぞ」

 ティナはエレーシーと交替すると、小さな咳払いを一つして、話をする姿勢を整えた。


「今回の、シュビスタシア市役所前での戦闘において大勢の犠牲者を出したということについては、先程、エレーシー統括指揮官から聞きました。天政府軍の出現を予想できなかったし、戦闘になったときの作戦も万全ではなかったかもしれません。これには私も心を痛めています。

 彼女達も、私達と同じ、『民族の明日』の為に、強い覚悟と大志を胸に、私の下に来てくれた方達です。

 もちろん、彼女達にとっても自らの死はどうしても避けたいとは思っていただろうし、地上統括府に打ち勝って自立した我がミュレス民族をその目で見届けることが叶わなかったことも、非常に残念なことだと思います。

 私達は、そんな彼女達の叶わなかった思いを、達成させなければなりません。

 残された私達がやるべきことは、彼女達の遺志を継ぐことです。それはすなわち、この戦いを最後まで勝ち抜き、『民族の自由』、『民族の解放』を勝ち取ることです。一度に105人という、これまで我がミュレス国が経験しなかった彼女達の死に怖気づいて、完全に撤退することはもちろん、支配領域を拡めず、一部とはいえ民族の同朋に、このまま辛い思いをさせるのも、彼女達の意に反することでしょう。

 私達はこのまま、怯むことなく、確実に歩を進めていかなくてはなりません。

 私達はこれまで、トリュラリア、エルプネレベデアなど、そして、このシュビスタシアで命を落とした仲間達の思いも載せて、そして、現在、この天政府領ミュレシアに住む我がミュレス民族数十、数百万の明日を背負って、戦っていかなくてはなりません。

 ですが、私達には、弔いの期間が必要です。

 今、ここに眠る仲間達、そして、これまでに失われた私達の仲間に、最後の別れを告げ、次の遠征へと送り出して頂きましょう。

 もちろん、我々国軍幹部は、今後、このような事がないように、改めて話し合いをしなくてはなりません。その間、皆さんはこれまでに失った我々の仲間達を思う、追悼の期間となります。

 この後、シュビスタシアの街に降りたら……地上統括府時代の、彼女達の友達や同僚に……戦死を伝えてあげて下さい。あの、天政府軍を相手に、立派に剣をふるい、立ち向かっていったよと、伝えてあげて下さい。この丘は、ミュレス民族に開かれた場所にしますので、皆さんの友達、同僚に、こちらに赴いて、ここに眠る方達にご挨拶をしに来ていただくよう、案内をして下さい。

 そして、こういう時に言うのも何ですけど、もし、皆さんのお知り合いに、ここに集まった我軍一人ひとりと同じく、民族の自由を勝ち取る、全てのミュレス民族が同じミュレス民族の統治の下で差別されることなく、毎日の暴力に怯えることなく暮らせる社会を実現させたいという熱い思いと、そのためには命をも賭すことができるという覚悟を胸に抱けるという方がおられたら、ぜひ、私達幹部まで紹介して下さい。

 我がミュレス民が、そうはいっても強大な力を持つ天政府人達、そしてさらに鍛えられた天政府軍と戦うためには、どうしても人数が必要になります。一人ひとりの力は小さくとも、我が民族の力を結集すれば、必ずや、天政府軍、そして天政府の地上支配の中枢である地上統括府市でさえ、制圧できるものと、私は信じています。それに、我が軍の数が増えれば増えるほど、多彩な作戦を取ることが出来るようになり、今回のような惨状を招くこともなくなると思います。

 一人ひとりが、自分自身の命を生き抜くためにも、そして、ここに眠る仲間を含めた我が民族の全てが待ち望む『民族の明日』を実現させるためにも、ぜひ、これからもよろしくお願いします」

 ティナは、深々と頭を下げ、その場に集った兵士達の温かな視線を受けながら、その場を退出した。

 退出する直前、ティナはエレーシー達幹部を集めた。

「皆、ちょっと、これからのことについて話し合いましょうよ」

「これからのこと?」

「そう。これからは、天政府軍を念頭に置いて計画を考えないといけなくなるわ。今回のシュビスタシアでの戦いも私はよく知らないから、そのことについても教えてほしいけど、次からは苦戦を強いられるでしょう? だから、もっと作戦を考えておかないといけないわ」

「そうね、姉さんの言う通りだわ。今回は犠牲者は多数だけどなんとか市役所奪還は果たせた。だけど、これから、ただ犠牲者も出して、何も得られなかったなんて事になったら、兵士も逃げ出すわ。私達には技はないんだから、作戦を練らないと……」

「そうか……よし、それなら、市役所に集まろう。多分、市役所なら、地上統括府からの資料も、トリュラリア以上にたくさんあるはずだよ」

「じゃあ、そうしましょう。あ、そうだ。アビアンは、ここの監視をお願い」

「はい……?」

「私達は先に戻ってるから、アビアンは、ここの監視をして欲しいの。ここの出入口は一つだけだからわかりやすいだろうけど、下に降りていく皆に、各自で宿を決めて、どこに泊まるかをワーヴァに教えてあげて。そして、出発の時が来たら、宿まで連絡するとね。多分、最短でも2~3日後かなと。それで、貴女は最後の一人と一緒に降りてきて。市役所でまた、逢いましょう」

「なるほど。分かった、皆に伝えるね」

 アビアンは控えめに返事をすると、早速、出口の近くで帰る兵士達が来るのを待ち始めた。

「さて、私達も、戦死した仲間に向き直りましょうか」

 ティナの一言を機に、エレーシー達幹部は一度解散し、各々思うところのある墓標の前で、一個人として弔いの意を捧げた。

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