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ミュレス帝国建国戦記 ~平凡な労働者だった少女が皇帝になるまで~  作者: トリーマルク
第四章 急速進攻 ・ 第一二節 シュビスタシア奪還計画
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七四 街の見える墓地

 ティナが目のあたりにした現状は、異様なものであった。

 そこには、この静かな森の中で、なるほどこれは気づかないだろうと納得するほど静かに、黙々と地面に無数の穴を穿つ仲間達と、彼女達の中央で横たわるものがいた。

 ティナは、これまでの、トリュラリアやエルプネレベデアの解放後の雰囲気と確定的に、全く異なる雰囲気に戸惑いを隠せなかった。

「おかしいわね……市役所を制圧した次の日くらいは祝賀ムードで騒いで、『次はどこにしようか? 』なんて話を早速するのがこれまでの流れだったはずなのに……」

 広場を見渡し、エレーシーの姿を見かけると、ティナの方からすぐさま駆け寄った。

「エレーシー、どうしたの? みんな、なんか暗いけど……」

「……」

 エレーシーは、僅かな無言の後、力なく語り始めた。

「……シュビスタシア市役所は奪還したし、治安管理隊も制圧したよ」

「良かったじゃない! それなのにどうして……」

 ティナは結果と士気の食い違いにうろたえながらエレーシーに説明を求めようとすると、ふと、真ん中に並べられたものが目に入った。

「……犠牲者は、105人……」

「105?!」

 ティナは、これまでの戦いの犠牲者数よりも一桁大きな数に驚いた。

「治安管理隊は私の部隊が引きつけてはずだけど……?」

「向こうの軍が出てきたんだよ……」

「軍って、あの天政府軍が?」

「あ、ティナ、知ってたの」

「治安管理隊がいない村には、たまに天政府軍が来てたのよ。でも、天政府軍がついに……」

 ティナは、戦局が今までよりも一段と厳しくなっていくだろうということが、ふと頭によぎった。

 しかし、それにしてもエレーシーをはじめとした兵士達が異様に落ち込んでいる事のほうが気掛かりだった。

「それはそれで対策しないといけないけれど、かなり落ち込んでるじゃない、皆も、あなたも」

 ティナは、事あるごとに俯き、ため息をついているエレーシーの背中に手を置き、慰めるように優しく叩いた。

「……一応は、市役所占拠は果たしたんだ。だけれど……」

「ええ……」

「確かに、天政府軍との戦いでは、目の前で仲間が次々と切られては倒れていったんだよ。だけど、まさか100人以上とは……」

「そう……それは……」

「それに、その中には私の知り合いもいたし……」

「……」

 思わず涙ぐむエレーシーの姿を見て、ティナは慰めの一言すら掛けることが出来なかった。特に何も言わず、エレーシーの身体を抱き寄せ、とにかく落ち着かせることだけを考えた。

 ふと周りを見ると、兵士達は黙々と穴を掘っては、民族のしきたりに忠実に従いながら仲間の亡骸を次々と埋葬していた。民族の独立という大きな目標を担うティナとしては、エレーシーや、その他の兵士に何か声をかけなくてはと思った。

「……エレーシーのせいでもなければ、兵士のせいでもないわ。武力衝突する以上、何をどうやっても、犠牲は出るものよ」

「……でも、ティナも自分の部隊で死者が出たら辛いんじゃないの?」

「それは……そうね。でも、これを乗り越えないことには、『民族の自由』は得られないわ」

「……」

「私は、自分が命を落としてでも、『民族の明日』を明るいものにしたいという覚悟と大志を持った人達が、私達の下に集っているものと信じているわ。私も、もちろん怖いけど、これからも、私の子供や孫世代までも、これまでのようにずっと天政府人に虐げられっぱなしの暗い未来を変えて、貴女から聞いた『過去のミュレス民族の尊厳と栄光』を取り戻したいと思ったから、この話に乗ったの」

「……」

「だから、エレーシーも、統括指揮官である以上、乗り越えて、皆を良い方向に率いてね……」

 ティナは、一層強く抱きしめた。

「……分かった、……分かったよ。それに、天政府軍も出ていることだし、ここで挫けてしまったら、私達の生活は以前よりももっと厳しいものになるもんね。そうか、うん。私には、統括指揮官としての責任があるもんね」

「そんなに気負いしなくてもいいけど、私は私、エレーシーはエレーシー、皆の役割を果たしていきましょう。もちろん、亡くなった兵士の死を悼むのも、軍の一員としての役割だわ」

 ティナはエレーシーの肩を叩いて励ますと、慌ただしく妹の方へと向かっていった。

「まあ、死を悼むのも軍の一員としての役割か……」

 エレーシーはティナの言葉を再び噛みしめるように繰り返すと、木製の墓標を作っている兵士のもとへ赴き、場所を聞きつつ、墓標を配ろうとしたところ、再びティナがエレーシーのもとへと近づいてきた。

「エルルーアやアビアンとも話したのだけれど、今回は軍として追悼しようと思うの」

「うん、いいと思う」

「だから、埋葬が終わったら、貴女に知らせてくれるように、伝えてくれないかしら」

「……? 分かった。じゃあ、この広場の中にいるようにも伝えればいい?」

「ああ、ええ。よろしくお願いするわ」

「分かった」

 エレーシーは、埋葬の儀式を黙々と行っている兵士たちに墓標を手渡して、ティナからの伝言を伝えていった。

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