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ミュレス帝国建国戦記 ~平凡な労働者だった少女が皇帝になるまで~  作者: トリーマルク
第四章 急速進攻 ・ 第一二節 シュビスタシア奪還計画
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七二 シュビスタシア市役所戦、一夜明けて

 夜中の激戦を終え、やがて夜が明けると、市役所の周りには惨状が広がっていた。

「はあ……」

 エレーシーは、仲間の亡骸に寄り添いつつ涙を目に滲ませ、ため息をつく他なかった。

「……はあ……」


 夜のうちには覆い隠され、また直視したくない現実は、想像通りの現実として目の前に横たわっていた。

「まずは……身元確認……」

 エレーシーは重たい腰を上げて、エルルーアに兵士名簿を持ってくるよう要求した。

「名簿? 名簿ね……それなら、ワーヴァが持ってたんじゃないかしら?」

「あれ、そうだったっけ。じゃあ、ワーヴァに会ったら名簿を持ってくるように言っておいてよ」

「分かったわ」

 とにかく、名簿のことはエルルーアに託し、自身は近くの兵士とともに、通りのあちらこちらで横たわっている遺体を、とりあえず市役所の側まで運び、身元確認をしやすくするために一列に並べておこうと考えた。

「じゃあ、そっち側持って」

 エレーシーは率先して頭側を持つと、足側を持つ兵士と協調しつつ持ち上げた。

「うっ、重いなあ……」

 その重さに驚きと悲しみを感じつつも、一歩一歩、重い足取りで通りの端へと運んでいった。

「いい、そっとだよ、そっと」

 エレーシーは、兵士の亡骸を静かに地面に置くと、悼みを込めて頭を二回撫でた。

 人肌とは思えない冷たさにふと手が止まった。

「はあ……」

 エレーシーはまたため息をつきつつ、また一体、移動させようと立ち上がった。

「統括指揮官」

 エレーシーは立ち止まり、ふと振り向くと、昨晩、エレーシーが率いていた部隊の数人がそこに立っていた。

「私達も、お手伝いさせて下さい」

「……あ、ありがとう」

 エレーシーは、ふと笑みを見せたが、すぐに表情を直して指示を与えた。

「それじゃあ、二人一組くらいで、市役所の周りに遺体があるかどうか探して来て。それで、見つかったら、傷つけないように、慎重にここに並べて」

「天政府人の遺体だったらどうしますか?」

「それは……通りの反対側に並べておいて」

「承知しました」

 指示を受けた兵士達は、四方に散らばって任務にあたっていった。この場でやることのなくなったエレーシーは、ワーヴァを待ちつつ、この中に知り合いがいないかどうか、改めて確認しておくことにした。


「統括指揮官!」

 しばらくして、やっとワーヴァが兵士名簿を携えてやってきた。

「あ、ワーヴァ」

「エルルーアさんに言われた通り、兵士名簿をお持ちしました」

「ありがとう」

 エレーシーは、ワーヴァから名簿を受け取ると、荷物から筆記用具を取り出してパラパラとめくりながら、並べられた遺体を一つ一つ調べ始めた。

 まずは、一人ひとりの顔を見ながら、知っている者がいればその者の名前に線を引き、遺体の頬に赤いインクで一筋の印をつけた。

 そして、知らない者については、周りを歩いている兵士に尋ねて名前を明らかにした。

 実のところ、このような処理は戦の度に行っていたことではあった。

 しかし、優に50人を超え、100人に届かんとする犠牲者の数、そして、見れば見るほどシュビスタシアでの知り合いに見える犠牲者の顔に、エレーシーは悩まされていた。

「うーん……」

 ふと頭を抱えていると、不意に後ろから優しく背中を叩かれた。

「エレーシー、周りの捜索が終わったよ」

 アビアンが捜索終了を告げに来たのだった。

「ああ、それは、どうも」

 エレーシーは上の空で言葉を返す他なかった。

「なかなか元気がないみたいだけど……」

「そりゃあ、まあ……」

 エレーシーは、ふと並べられた遺体に目をやった。

「ああ、なるほど。まあ、そうか……」

 アビアンは、しばし手を止めて考えたが、また優しく背中に手を置いて慰めた。

「まさか、天政府軍が市役所前で張っているとは思わなかった」

 エレーシーはその場に座り込み、ぽつっと独り言を呟いた。

「まあ、こういう事も……あるよ」

「うーん……そうか……」

 アビアンの慰めにも、エレーシーはなんとも微妙な顔をするだけだった。

「ところで、その……墓地は……?」

 アビアンは気を使いながら聞いた。

「そうだなあ……郊外の広いところしか使うところは無いと思うし……そうだ、北西の丘があったでしょ。そこを使おうよ」

「北西の丘か……まあ、これだけ一度に埋葬できるところといえば、それぐらいしかないか……」

 アビアンも、エレーシーの考えに納得したようだった。

「でも、なるべく警備の目が行く市内がいいから、北西の丘に近い、広い場所を他の兵士達と探してきて。私はここで照合してるから」

「分かった、じゃあ、探してくるね」

「なるべく高いところがいいな、街が見えるところ」

「分かったよ」

「見つかったら、皆で運んでいこうよ」

 エレーシーが言い終わると、アビアンは肩を2回叩いて、場所探しのために兵士を連れて市の北西へと向かった。

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