七一 戦いの後
「中々な演説だったわ、姉さんみたいな」
入り口から出てきたエレーシーを拍手とともに出迎えたのは、エルルーアとアビアンだった。
「無事奪還できたら、伝えてほしいとティナに言われてたから……」
「なるほどね、通りで、姉さんみたいだと思ったわ」
「それで、どうする? その肝心の『防衛体制』は……」
アビアンは、エレーシーの話の中の「防衛体制」の具体策が気になったようだった。
「そうだねえ……朝になったら、各戸に今日の事を伝えるでしょ、あと、通りに兵士達を配置するでしょ、あと……」
エレーシーは、急に沈痛な面持ちに変わった。
「……今回の戦いの被害状況を確認しないとね……」
この一言に、エルルーアとアビアンも若干気まずく思った。
「そうね……今回は、相当……」
「相当だろうね……」
3人とも、朝になれば直視したくない現実を直視することになることを恐れたが、やがて覚悟を決めた。
「朝になったら、死傷者の身元確認と……」
アビアンは、直接的な表現を思わず言い淀んだ。
「……どこかの空き地を、専用の場所にしましょうよ」
エレーシーはため息を一つ大きくつくと、半ばうなだれたように頷いて承諾した。
3人はしばらく沈黙を続けたが、アビアンがふと重要なことを思い出した。
「あ、ティナ達を迎えに行かないと!」
エレーシーとエルルーアは、それを聞いてハッとした。
「あ、ああ、そうだね。私が働いてた船着き場は使えるだろうから、そこから舟を出そう。……ああ、そうだ。天政府人の治安管理隊が残ってた」
エレーシーは、「船着き場」という言葉を聞いて、市役所に着く途中に出会った治安管理隊の存在を今更思い出した。
「私の部隊を連れて、治安管理所を占領して来るわ」
エルルーアが、治安管理隊の制圧に手を挙げた。
「大丈夫?」
「市役所が天政府軍をもってしても陥落したと伝えれば、多かれ少なかれ落胆するでしょ。一応、盾を持った部隊を多めで構成して行くわ」
「無駄に犠牲者を出さないようにね」
エレーシーは、エルルーアにひとまず釘を刺しておいた。
「分かってるわよ」
エルルーアは、若干微笑みながら言葉を返すと、即座に兵士を召集して治安管理隊の制圧に向かっていった。
シュビスタシア奪還の長い、長い夜の終わりを告げるように東の空は薄っすらと明るくなりかけていた。
エレーシーは、アビアンと当面の防衛体制について簡単に議論を交わすと、大きく伸びをしつつ、市役所の中へと入っていき、つかの間の休息を愉しみ、明日以降に備えるのであった。




