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ミュレス帝国建国戦記 ~平凡な労働者だった少女が皇帝になるまで~  作者: トリーマルク
第四章 急速進攻 ・ 第一二節 シュビスタシア奪還計画
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六五 山の上より

「もうそろそろかな?」

 アビアンを含めたエレーシー達の部隊は、シュビスタシア郊外、レデルシフェルナ山の中腹まで無事にたどり着いていた。

「まだ、トリュラリアの方から灯りは見えませんね……」

 監視役の兵士は、じっと川の方を見ながら伝えた。

「シュビスタシアに近づいてから灯りを付けるかもしれないわ。シュビスタシアの方はどう?」

 エルルーアも気にして、監視役の様子を伺った。

「そ、そうですね……うーん、シュビスタシアの船着き場も、そんなに灯りは見えないですね……」

 エルルーアがシュビスタシアの方を見てみると、確かに灯りはあったが、それほど明るくはなっていなかった。

「そうね……確か、姉さんは30艘くらい出すって言ってたから、もっと広く明るくなってるはずね。この様子を見ると、まだ来てなさそうね」

「じゃあ、もうちょっと待つかあ」

 アビアンは、少しがっかりした様子で、皆の集まっている広場の方に帰っていった。

「疲れたら、隣で寝てるあの子にちゃんと引き継ぐのよ。それじゃあ」

 アビアンが帰ったのを見て、エルルーアもその場を離れた。


 幸いなことに(それとも、地上統括府からの命令で通行制限か何かが掛かっていたのか)、山に登るまでに天政府軍や治安管理員らしき人物と出会うことはなかった。

 エレーシーの部隊は、ハリシンニャ川を渡し船1艘に乗り切る3~4人でまとまって渡り、待つことなく西岸の道を南下して、元々の集合場所に決めていたレデルシフェルナ山の北の麓に潜み、全員揃ったところで山に登り、作戦会議の段階で事前に決めていた、シュビスタシアの街に自身の姿をさらけ出すことなく、かつハリシンニャ川の船着き場が見えるところまで登り、そこに仮の拠点を構えていた。

 昼間は辺りの木の実などを探しつつ、気ままに過ごしていたが、夜になると、川の方に監視役を立て、何十もの船団の灯りがトリュラリアからシュビスタシアの方へ移動するのを待っていた。その間、兵士達はいつでも飛び出せるように、宿営地は夜になるたび片付けていた。


 山に籠もって3回目の夜。

 この日も、いつものように監視役を立ててじっと川の方を監視していた。

「どう? 今日は」

 エレーシーは、監視役を立てた後は、1時間おきぐらいにはその下に行き、様子を聞いていた。

「うーん、まだですかねえ……」

「舟の形はもちろん見えないんでしょ?」

「そうですね、舟の形は見えないですね。でも、行灯の灯りは見えるので……」

 エレーシーが川の方に目をやると、確かに数艘の小さな舟が灯りを灯して川を上下に行き来しているのが見えた。

「確かに見えるね。あれ、天政府人の舟かな……?」

「昼間、歩いたときはそんなものは無かったですけど……」

「でも、そんな感じがするよ。少なくとも、川上から荷物を運んでくる漕手さんは、港が開いてる昼間にしか来ないし」

「そうなんですね。渡船部隊が遭わなければ良いんですけど……お、あれは?」

エレーシーは、監視役が指差した先に目を凝らした。

シュビスタシア側の岸に近いところからポツポツと明かりが増え、一気に船着き場の周りが明るくなった。

「あれは……トリュラリアの方から、シュビスタシアの方に向かってきたよね?」

「ええ、そうですね……」

「ティナの部隊だ……」

エレーシーは一言つぶやくと、すぐさま後ろに振り返り、急いで広場に帰ると、寝ている兵士達を揺すって起こした。

「皆! いよいよティナの船団がシュビスタシアの港まで辿り着いている! アビアン、下山のための道は開けた?」

「何とか間に合ったよ!」

「よし、それじゃあ……船団がシュビスタシアを離れたら下山する! 遅れをとることのないように、すぐさまこの場を離れられるように整えよう!」

「はい!」

 戦闘準備を言い渡された兵士達は、これまで以上に手早く周囲を片付け、全ての荷物を持って監視役のそばに近寄り、全員で川の様子をじっと注視した。何かが起きたときに、すぐさま行動ができるようにするためだった。


船着き場の周りに集った光の塊は、その姿形を次々と変形させながらもその場に留まっていた。

「ティナ……総司令官の船団が今、懸命に引きつけてくれてるんだね……」

エレーシーは、揺れ動く数十の光に感動をも覚えながら、頃合いを見計らうように、改めてじっと見つめた。

 左右前後にゆらゆらと煌めく行灯の光は、ある時を境に一つ、また一つと船着き場から徐々に離れつつあった。

「あ、動き出したかな?」

エレーシーは思わず飛び出しそうになったが、ここで焦って、早とちりしてはいけないと思い、再び腰を据えて見守った。

 再び船着き場の方を見ると、灯りは再び塊となってトリュラリアの方に移動し、さらによく目を凝らして見ると、明かりのついていない舟が、周りの行灯に照らされてぼんやりと浮かんでいた。

「あれは……シュビスタシア側から? それなら……よし!」

エレーシーは、ついに待ち望んでいたこの時が来たことを確信した。すっくと立ち上がると、剣をさっと引き抜いた。

「皆! 行動開始!」

「オーッ!」

エレーシーの呼びかけに兵士達は即座に声で応え、一足先に走り出したエレーシーの後ろを追いかけていった。アビアンとエルルーアも、兵士達の集団の中に紛れるようにしながら共に山を駆け下りていった。

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