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ミュレス帝国建国戦記 ~平凡な労働者だった少女が皇帝になるまで~  作者: トリーマルク
第四章 急速進攻 ・ 第一二節 シュビスタシア奪還計画
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六三 シュビスタシア渡船場襲撃

 やがて、陸には武装した治安管理員(もしくは天政府軍兵士)がずらっと並んでいた。

「さあ、改めてそちらの用件を聞こう。そんなに大勢でここに来た理由を……」

 ティナは、この時を待っていた。

「用件? 用件は、これよ!」

 ティナは大きく一回、手を叩いた。

 それを合図に、それぞれの船に被せてあった覆いがめくれ、中から兵士達が姿を現した。

「あっ」

 ずらっと並んだ天政府人は、思わず声を上げた。

 ティナがすっと手を上げると、兵士達は一斉に弓を構えた。

「早く、もっと援護を呼んで来い、ほら」

 行灯に照らされて浮かぶ兵士達の姿を見て、天政府人側の代表者は非常に焦った表情で、手を振り、援護を要請した。

 その様子を、ミュレス国側の兵士達は全く表情を変えずに、弓を構えたままじっと眺めていた。

 両者の間の妙な緊張感は、今、はっきりとした緊張感に変わり、船を留めるために水をかく櫂の音だけが、嫌に大きく船着き場に響いていた。

 一方、陸のほうでは段々と人が集まって来ていたが、やがて人の流れも落ち着いてきたように思えた。

 集団の中には、何艘かの小舟を用意し始めている人も見えた。

 ティナは陸の方を眺め、頃合いを見計らい、そしてその時を悟ると、右手を顔の前に上げると、バッと前に突き出した。

「よし、射て!」

 ティナは攻撃命令を発し、すかさず盾を構えた。

「ワーッ!」

「ワーッ!」

 兵士達は一斉に声を上げながら、まばらに弓矢を放ち始めた。

「攻撃だ!」

「彼女らを陸に上げるな! 奴らはきっと、あの『ミュレス国』の連中だ!」

 ミュレス国側の攻撃に驚いた陸側は慌てながらも、応戦の素振りを見せた。陸側の部隊は、運の良いことに弓を持っておらず、剣を持った部隊が降りかかる弓矢を盾で防ぎながら、舟に乗って直接やって来ようとしていた。

 ティナは、この様子を見て、自分達が立てていた計画に、想定を上回るほどよくその通りに進んでいる事に満足した。

 やはり、血気盛んで、我々ミュレス人などいとも簡単にねじ伏せられると思っている天政府人の治安管理部隊。積極的防御でもって、こちらを殲滅させようとして来ていた。これを見て、こちらも同じく計画通りに、小刻みに船団の形態を変えながら、ひたすら弓矢を放ち続けた。

 次第に陸の部隊よりも海上に出ている部隊の方が多くなってきたのを見計らって、いつのまにか船団の後ろ側に位置していたティナは、もうそろそろの引き際について考え始めていた。

 その時、陸から来た一艘の舟が、ミュレス国側の兵士の目と鼻の先、剣の届く範囲まで寄せてきていた。

「あっ! 危ない!」

 危険を感じた漕手は、反射的に手に持っていた櫂を振り回し、向こう側の天政府人を舟から叩き落とした。

 ティナは、引きつけと撤退のタイミングの見計らいをより一層見極めた。

「総司令官! もうそろそろ射つ矢が無くなりそうです!」

 その時、ティナの近くにいた舟の射手の一言が、ティナに決心を付けさせた。

「うっ……なかなか厳しい状況になってきたわね……」

 ティナは奥歯を噛み締めつつ、眉根を寄せながら弱々しく呟いた。

「……残念だけど……これ以上戦うと負けるかもしれないわね……仕方がないわ、皆! 撤退よ! 撤退!」

 ティナは、ぼそぼそと独り言をつぶやいた後、大声を上げ、手を回しながら命令した。

「はい!」

 ティナの一言を契機に、漕手は一斉に、真反対のトリュラリアの方角に船首を向けて、逃げ帰る姿勢に入った。

「お、逃げたぞ! 追え! 追え! 一人たりともトリュラリアに上陸させるな! ミュレス人の事だ、今、生きて返すと何回でも攻めてくるぞ!」

 ティナは背後に熱の入った大声を受けた。一度炎がついたら、なかなか諦めない天政府人の標準通りだった。ただし、ミュレス人も同じく諦めない民族であることは、さすがによく分かってるなあと、ティナは感心しながらも恐怖を覚えていた。

 ミュレス国軍の舟は、前で二人が全速力で漕ぎながらも後ろで一人、少ない弓矢を節約しながら射続け、せいぜい一人か二人しかいない天政府人の舟を引き離しにかかった。

「どう? 天政府人はまだ来てる?」

 ティナは、忙しく櫂を動かしながら、後ろにいる射手に聞いた。

「まだ来てますよ!」

「い……なかなかしつこいわね……」

 自分たちの計画通りに事が運んでいることに、思わず「良かった」と言いそうになったが、すんでのところでぐっと堪えた。

「近づいてきてる? 遠のいてる?」

「少しずつ遠のいていってます!」

「そのくらいがいいわね、さあ、がんばりましょう」

 ティナは、後ろで同じように漕いでいる漕手に声を掛けながら、再び前を向いてひたすら漕ぎ続けた。

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