六一 主戦部隊、トリュラリアを発つ
数日後、朝早くから街道には大勢の兵士が集められていた。
「ティナ、アルミア……」
エレーシーは、二人の顔を交互に見ながら、若干不安げな表情を浮かべた。
シュビスタシアの攻略にあたって、船をよく知っているティナが渡し船部隊の隊長を、新町長のアルミアは国軍への「顔見世」という意味も込めて、万が一の時のトリュラリア防衛隊の隊長を、そして、エレーシーはこれまで統括指揮官として指揮していた経験を活かすべく、シュビスタシア陸路突撃部隊の隊長を任せられることになった。
「エレーシー、心配することはないわ。そのためにあれだけ作戦を立てたんだから……それより、向こうでしっかりと作戦を達成してくるのよ」
ティナは、不安がるエレーシーをしっかりと抱きしめた。
「あ、ありがとう、ティナ。おかげで、少し安心したかな」
エレーシーを補佐するために突撃部隊の副隊長に任命されたエルルーアとアビアンも準備を整えて集合場所へとやってきていた。
「国軍のトップ、総司令官の姉さんが、副部隊で一人っていうのも不安だけれど……人手を考えると仕方がなさそうね。統括指揮官、よろしくね」
エルルーアは、いつもの冷静な面持ちでエレーシーの肩をポンと叩いた。
「エルルーア、あまりエレーシーを不安がらせちゃだめよ。ただでさえ重責なんだから」
「あ、ああ、それもそうね……」
エレーシーには、エルルーアに言われなくとも、この戦いで主力部隊の隊長を任されることの重要性は重々承知していたが、いざ、それを改めて口にされると、さすがに身を固くするしかなかった。
「まあ、エルルーアもアビアンも付いてきてくれるみたいだし……それよりも、ティナの方が危険じゃないの?」
ティナは、それを聞いて若干顔を曇らせた。
「確かに、船の上は逃げ場が少ないけど……まあ、私は着いたら撤退命令を下すだけだから……」
「そっか、なら……」
エレーシーは、ティナの話を聞いて、一番危険な部隊なのは自分の率いる主部隊だということを再確認したようで、話を振ったことに少し後悔した。
「今日出発しても、行動開始は明日でしょう?」
ティナは、エレーシーに確認した。
「そうだね。今日付いても、まずはちゃんと体制を整えてから突入しないと……」
「そうね。あ、でも、明日、明後日に着くとも限らないわね…まあ、準備できたぐらいに行動開始するわ。」
「それなら、行灯の方をよろしくね」
「承知してるわ。待機場所から見えると良いんだけど……」
「まあ、見えなくても、頃合いを見計らって行くよ」
ティナ達が話をしている間に、ワーヴァが兵士達が揃ったと報告しに来た。
「もうそろそろ、出発しないと」
エレーシーは、段々と昇っていく日を見ながら、少し焦りを覚えた。
「そうね。早く待機場所に行って、ゆっくりと市街戦の計画を確認したほうが良いかもしれないわね」
「よし、それじゃあ、しばしの別れだね」
「また、シュビスタシアの街で会いましょうよ、ね」
「絶対に会おうね」
エレーシーは、ティナと改めて握手をすると、エルルーアとアビアンを目で呼び、兵士たちの方を向いて剣を振りかざした。
「よし、皆! 私達はいよいよ、シュビスタシア攻略に取り掛かる! 私達が、天政府人の暴力に怯えて過ごしてきたシュビスタシアの街を、元来の歴史に倣って、再び我々ミュレス民族の下に取り戻そう! そして、天政府人の圧政に苦しむ我々の仲間を救い出そう!」
「オー! オー! オー!」
兵士達は、エレーシーの口上に呼応するように、剣や盾、その他各々が持っている武器を天に掲げた。
「それじゃあ、明日の突入に向けて、山腹の待機所まで出発!」
エレーシーの後にエルルーア、アビアンが続き、兵士たちがその後をついていった。ティナとアルミア、そしてトリュラリアの町民たちは、最後の一人が街の角を曲がっていくまでひたすら拍手を続けた。




