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ミュレス帝国建国戦記 ~平凡な労働者だった少女が皇帝になるまで~  作者: トリーマルク
第四章 急速進攻 ・ 第一二節 シュビスタシア奪還計画
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五九 皆で作る青写真

 エレーシーとアビアンの記憶力と、ティナの絵画力に、エルルーアの知力をもって、机の上には見事にシュビスタシアの周囲の様子が浮かび上がった。

 浮かび上がったのはいいとしても、軍幹部4人はその紙を目の前にしてさらに悩まざるを得なかった。

 東西を川、南に海を擁する上に、北には小さな山や丘がいくつもあり、南北に伸びる主要な街道はすべて狭い谷を貫いているのみだった。

「これは、なかなか攻めづらそうだわ……」

「海に出るのも怖いし、これは、やっぱり川を渡って直接攻め込むか、それとも北側に周って攻め込むかのどちらかになるかしらね……」

 タミリア姉妹は、二人仲良く地図を見ながら腕を組んだ。

「やっぱりそうなっちゃうよね……どっちが簡単かなあ……」

 その輪の中に、エレーシーも加わって一緒に悩み始めた。

「そうね……理想から言えば、両方から乗り込むのも悪くなさそうね」

 ティナの大胆な提案には、全員驚かされた。

「両方からか……確かに、両方からだと、どちらかは多少手薄になりそうだけど……」

「でも、さっき、船の上は逃げられないから危ないって言ってなかった?」

「確かにそう思ったわ。だけど、後々考え直すと、それも数と作戦次第かなぁと……」

「でも、両方って言うのも難しいよ。時間差で行けば、どちらかはより手薄になるかもしれないけど、それはどちらかを囮にする事になるし……」

「まあ、難しい作戦なのは間違いないわね……」

「陸路ならともかく、川の方から攻める方は、船と船の漕ぎ手の数が足りるかどうかも考えないとね……」

「そうね……中途半端に数を分けて、この戦いを落とすのだけは避けたいわね……」

 ティナとエレーシーは再び長考に入ろうとしていたが、その中でもエルルーアはしっかりと動いていた。

「アビアン、アルミアさん。トリュラリアからどのくらい船って出せるの?」

「うーん、そうだなあ……アルミア、ちょっと川の渡しの様子を見に行ってくれる?」

「あ、分かりました」

 アビアンの命令に従い、アルミアは再び小屋を飛び出して港の方へと急いだ。

「アビアン、船だけあってもだめよ。漕手がいないと船は出せないわよ」

「あれ? あ、そうか」

 ティナの一言にはっと気づいたらしく、アビアンは一瞬驚いた顔を見せながら腕を組んだ。

「漕手、漕手……おそらくだけど、シュビスタシアかトリュラリア出身の兵士の中にしかいないような気がする」

「それか、トリュラリアの民間の船頭さんにお願いするしか無いかな」

「でも、これからやることはかなり危険なことだわ。できることなら、軍内部で完結させたいわね」

 船頭思いのティナは、エレーシーの提案を一言で取り下げさせた。

「それじゃあ、そんなに船は出せそうにないかな……」

「川を渡る部隊よりも、北側から周ってくる方を主軸においたほうが良さそうね。もっとも、北に周るにしても、どこかで川を渡る必要はあると思うけど……」

「あ、そうか。結局、ここからシュビスタシアに行こうとする限り、川は渡らざるを得ないわけか」

「そうね……もっとも、上流の村まで行けば、村に一人や二人、渡し船の船頭さんくらいならできる人はいると思うけど……」

「うーん、確かに、そうか……」

 エレーシーは、計量官時代に出会った、上流の村々の船頭の顔を思い浮かべながら、ティナの言葉に頷いた。

「シュビスタシアより上流にも、近いところに村があるの?」

「ティナの出身のベレデネアとの間にも、いくつか村はあるよ」

「トリュラリア側の岸にも?」

「うーん、いくつかあるわね」

「協力してくれるかな?」

「シュビスタシアの港を使っている上流の村の船頭さんも、最近の天政府人の露骨なレート下げには参ってたからね……多分、今の地上統括府の統治にはうんざりしてると思うよ」

「確かに、去年まではとてつもない勢いでレートが下がっていってたわね……それがシュビスタシア市の管理なのか、貿易関係の院の管理なのかはわからないけれど、他の街よりも協力してくれやすいんじゃないかなあとは思うわ。それに、そのような村の人達も、私達の軍の兵士として参加してくれてるし……」

「兵士の一員か……その人がこれまでに犠牲になってなければいいわね……」

 ティナはこれまでの犠牲者を思い出しながら、眉をひそめた。

「そうだね……ちょっと、名簿を見てみようかな」

 エレーシーは、傍らにおいていた荷物の中から紙の束を取り出すと、一つ一つ眺めてはティナの方に渡していった。

「うん、うん、うん。なるほど、どうやら犠牲にはなっていないようね」

「そう? なら、まあ、良かった。それじゃあ、アルミアが戻ってきたら、案を詰めましょう」

 ティナはひとまず話が一段落したと思い、グラスを揺らしながら、冷静に待つように促した。


「アビアンさん!」

 3人がシュビスタシアでの思い出話に花を咲かせている中、アルミアが港の調査を終えて帰ってきた。

「あ、アルミア。どうだった?」

「えっと、そうですね。小さな渡し船が25艘と、あと、少し大きめの荷積み船が5艘ありましたよ」

「小舟25に、荷積み船5か……まあ、人さえ揃えばまあまあの戦力にはなるかしらね」

 ティナは、言葉ではそこそこ納得したかのように返したものの、顔からは若干の頼りなさを直感で感じた様子がうかがえた。

「うーん、シュビスタシアの治安管理隊は同等かそれ以上に船を持っているような気もするね……」

「私達はトリュラリアから東に向かったということを掴んでいたら、いつかハリシンニャ川を渡って攻撃することは想像するには簡単でしょうしね。しかし、北側の陸路の一点突破も厳しいでしょう?」

「そうだね、元々シュビスタシアは治安管理員の数も多いからなあ……」

 エレーシーも、腕を組みながら天井を見つめた。

「海側からの攻撃も、真正面から戦うのは難しそうね。何か工夫しないと、手痛い反撃にあうかも……」

「といっても、海上の船は隠せないし……」

「そうねえ……確かに、計30艘もの船が一斉に向かっていったら、不自然極まりないものね……」

 エルルーアも話をしつつ必死に考えるうちに、ある一つの案が思い浮かんだ。

「もし、向こうが船で追ってくれれば……」

「何?」

「向こうが船で追ってくれれば、その分の兵力は削ぐことができるんじゃないかしらね」

「やっぱり、囮部隊として船を出すというわけね?」

「だって、どう考えても、船に載せられる分の兵力は限られるもの。向こうは大勢かもしれないし……」

「でも、そうなったら、逆にこっち側に乗り込んでこない?」

「そうか……でも、それは……」

 エルルーアは一瞬考え、言葉を返した。

「あ、そういえば、船には行灯をつけるでしょう? 夜にやるのが前提だけれど、それを、途中で消して船をあちこちに散らしながら帰ってくるというのはどう?」

「それをすると……?」

「それをすると、追ってきた天政府人たちも見失ってくれるのではないかなと期待してるの」

「まあ、確かに私達よりは夜に弱いとは聞くけれど……」

「北側から攻めるにせよ、こちら側も、シュビスタシアからの攻撃は想定しておかないといけないわね。ある程度は、トリュラリアの防衛のために残しておくことが必要だわ」

「シュビスタシアを攻撃している間に、トリュラリアを再奪還図るとは思えないけど、船で追われたら成り行き上ということもあるだろうしね」

「船を使った囮部隊、北側から進軍する本攻撃部隊と、トリュラリア防衛部隊の3部隊用意しておきましょう」

「分けるのはなかなか難しそうだね」

「でも、船関係以外に特殊技能はそれほどいらないと思うし、なかなかいいところまではいってると思うわ。後は、細かいところを考えていきましょう」


 作戦の骨子が決まったことから、ティナ達はそれを踏まえながら作戦の詳細を話し合うことにした。

 決戦はいつになるかはともかく、作戦の実行は夜と決めた。まず、主戦部隊は予めトリュラリアを出発し、シュビスタシア北部郊外に位置する山に潜み、準備が整い次第、主戦部隊はなんらかの合図をトリュラリアに待機している渡船部隊に送り、合図とともに船を進めることにした。

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