五七 満を持しての発表
「アビアン、どうかしら、もうそろそろ……」
ティナは頃合いを見計らいながら、アビアンのグラスに酒を注ぎつつ話しかけた。
「あ、ああ。あの事……」
アビアンも察したのか、アルミアの方をチラチラと見ながら、注がれた酒に口をつけた。
「アビアン、どう? 任せられるような人は見つかった?」
エレーシーも若干不安そうな面持ちで聞いた。
「ええ、もちろんよ」
アビアンは、二人の心配もよそに自信満々にアルミアの肩を叩いた。
「この子!」
「副町長ね」
アルミアは、突然アビアンに肩を叩かれて若干嫌な顔を見せたが、それよりも話の先行きを心配したようだった。
「アルミアか……まあ、いいんじゃないかな。頭もいいし」
エルルーアも含めて3人は、アルミアの賢さはある程度評価していたが、性格的な面はあまり知らないことから若干の不安もあったが、アビアンがこの数週間近くで見ていた人物だという事もあり、3人でお互いに顔を見合わせて悪くないと頷き合った。
「え? 何ですか?」
「アルミア、実は町長のアビアンの事なんだけど……」
「はい」
アルミアは、ティナの方を向き直し、一層身を固くして話に耳を傾けた。
「実は、アビアンには、これを機に私達の軍に戻ってきてもらおうと思ってるのよ」
「え、そ、そうなんですか? でも、それじゃあこの町は……」
「もちろん、この町を放っておきながらってわけではないわ。予めアビアンには話していたんだけれど、私達が戻ってくるまでに正式な後任を見定めてもらおうと思っていたのよ。そうよね、アビアン」
ティナに話を振られたアビアンは、自信ありげにニコっと笑みを浮かべた。
「そう、そりゃあまあ、毎日大変だったけど、その合間合間に他の人の事を見ながら、ちゃんとティナに言われた通りに考えていたよ。その結果が……」
アビアンは再度、アルミアの肩を先程よりも強めに叩いた。
「貴女ってわけ」
「……え?」
アルミアは先程までの話の流れからよもやとも思っていたが、いざ直々に指名されるとぴたっと固まってしまった。
「わ、私が町長……ですか?」
ティナとエレーシーは、アビアンに町長になるように告げたときの驚いたアビアンの顔と重ね合わせ、懐かしさすら覚えていた。
「そう! これまで私の横でとっても頑張ってくれたよね」
「そりゃまあ、総司令官に任命されたことですし……」
「それに、町の皆のため……でしょ?」
「ええ、まあ、そうですね……町の皆のため……」
アルミアは唇を噛み締めながら「町の皆のため」という言葉を繰り返した。
「それに、アルミアは私と違って、地上統括府の学校に通えるぐらい頭がいいんだから、私よりもずっと、町長として上手くやっていけると思うから……」
「アビアンさん……」
アルミアは、段々と目の前が明るくなっていくような気がした。
「大丈夫よ。姉さんも、民族の安穏と自立を強く願っているからこそ、私を含めた兵士の皆、その信念に惹かれて集まっているんだから。アルミアさんも、それに共感したから、参加してくれたんでしょう?」
「ええ、それは……」
「だったら、アルミアさんもそれを町民や町役場の職員に示せば、必ず助けてくれる仲間が現れるわ」
エルルーアは、いつになく優しい顔で、アルミアの手をそっと握った。
「エルルーアちゃん……」
「そうだよ。それに、何も町長が孤立しているわけじゃないからね。トリュラリア町長の上には、私達国軍幹部がいるよ」
エレーシーは、後ろから軽く肩を叩いた。
「そうね、まあこれはアルミアに限ったことでもないけれど、私達も含めてこういう国や町の中枢に立つという事に関しては完全に素人なわけだし、みんなで支え合っていきましょう。だから、アルミアも、町長になっても、私達に頼っていけばいいわ」
「そ、そうですか……?」
アルミアはしばらく考え込んだが、ふとやや晴れた面持ちを見せた。
「皆さんがそうおっしゃるのであれば……そうなのかもしれませんね……」
その言葉を承諾と受け取った4人は、一斉にほっと胸をなでおろし、改めてアルミアの前にあるグラスに酒をつぎながら、自らのグラスにも酒を注いだ。
「良かったわ。それじゃあ、皆でまた仕切り直しましょう」
ティナは、再びグラスを手にした。
「新しい町長を迎えた、トリュラリアの繁栄のために」
「トリュラリアの繁栄のために」
5人はまたグラスを軽く当て、今回は一斉に酒を飲み切ったのだった。




