五五 軍幹部ではなく、気心の知れた友として
天井に揺らめく3つのランプに照らされた料理は、どれも非常に豪華に思えた。
「地上統括府の時から、こんなに豪華な料理を作ってたのでしょうね……」
「多分、そうだろうね。以前からずっと、この店で料理を実際に作ってたのはミュレス人だったみたいだよ」
アビアンは早速酒を口にしながら答えた。
「でも、無事にトリュラリアまで帰って来れて良かったよ」
エレーシーは改めて帰還できた喜びをしみじみと噛み締めながら、目の前の料理に飛びついた。
「私達も、もちろん兵士の皆も、よく頑張ってくれたわ。まさかトリュラリアだけじゃなくて、ミュレシオン大街道沿いの町をほとんど奪還できたなんて、夢みたいだわ」
「いやあ、これもティナの決断やエルルーアの助言があってこそだよ」
「まあ、エレーシーさん。貴女も最前線で戦い続けながら、しっかりと指揮してたじゃない。なかなかやれることじゃないと思うわ。もしかして、私達に会う前から革命の準備でもしてたんじゃないの?」
エルルーアは半分ふざけたように問いかけた。
「いやいや、私はティナ達と会う前、もっと言えばフェルフと会うまでは、極々普通の計量官だったよ……」
「ふふ、でも、ここまでやれたのも、天性のなせる業なのかもしれないわね」
「そ、そうかな……」
エレーシーはいつになく褒められて少し照れながら頭をかきつつ周りを見回した。
「それにしてもアビアンも、アルミアと一緒とはいえ、よく一人で町を切り盛りできたね」
エレーシーはアビアンの方を向き直し、背中を優しく叩きながら改めて褒め直した。
「まあ、何とかなってるって感じかな。いろいろと慣れてないから大変だけどね」
アビアンはグラスを傾けながら続けた。
「最初の数日間はずっと、町役場にあった難しい書類をたくさん読んで、地上統括府からの『決まりごと』とかを勉強したのよ。もちろん、アルミアにも手伝ってもらったけど。それからは、厳しすぎたり、天政府人に有利になってる決まりごととかを洗い出して、もっと良い案を皆で考えてたりをずっと繰り返す日々だよ」
「そんなに難しい書類が?」
「難しいよ。だって、そういう町の運営みたいな事に関わる勉強はしてないし、第一、私達、学校では文語体なんてほとんど習わないでしょ? 多少似てるとはいっても、正確に読むのはなかなか難しくて……だから、天政府人学校にあった文語体の教科書とかの本を持ってきて、ずっとにらめっこだよ」
「なかなか難しそうだね……ミュレス国には、地上統括府の書類を簡単に書き下してくれる人が必要かもしれないね」
「そうね、もっとも、そういう人材って皆、地上統括府市の学校に行って習ってるのよね……教育院で働いてたフェルフなら読み書きできるのかもしれないけれど……」
「港で働いてるときに少し盗み見たことがあったけど、ティナが書いたようなものの比じゃないくらい難しかったよ?」
「それは……苦しいわね……」
ティナは苦笑いを浮かべながら、酒をグラスに注いだ。
「しかもね、それだけじゃないの。毎日、市民のみんなが困りごとを町役場に相談してくれるようになったのはいいんだけど、それの対処に追われてて……」
「まあ、いいことじゃない。これまでの天政府人町長に天政府人職員じゃ、話せることはないだろうし……」
「確かに、そうなんだろうけど、それにしてもね……」




