五二 東軍、再び西へ
ミュレス民族の東の果てにあるノズティアを攻略するも、ティナには休まる時間はなかった。
ノズティアで一週間、南部悪魔族の市長と天政府人の副市長に睨まれながらもなんとか兵士集めを行った。共同宣言の場に来ていた面々は、ミュレス民族というものに興味のあるものばかりであったので、かなりの人数が集まった。だがそこからはかなり集まりは悪かった。それでもある程度の兵は集めることが出来た。
しかし、ティナはまだまだ飽き足りなかった。
なぜならば、次の奪還目標は、中央ミュレシア第一の都市、商都シュビスタシアであったからだった。
トリュラリア以東の大街道沿いの町を制したといえども、迂回路が多数存在する現在では、資金を得る方法は非常に限られていた。しかし、前述のように地上統括府随一の港町ポルトリテに次ぐ国際的な商業都市であり、多数のモノが東西南北に行き交うシュビスタシアを奪還することは、地上統括府の経済に大打撃を与える反面、ミュレス国としても資金、物資の両方を一度に潤すことができるようになる、まさに要といえる存在であった。
東部の共同統治領ノズティア、西軍を派遣したヴェルデネリア、そして中央ミュレシアのシュビスタシアの3都市の奪還を果たせば、広大なミュレシアの全土奪還も見えてくると考えていたのだった。
「次の目標は……シュビスタシアね」
「とうとう、私達の町か……」
シュビスタシアに縁のあるティナとエレーシーは、感慨にふけっていた。
「姉さん達、何しみじみとしてるの」
一方、それほど縁のないエルルーアは冷めた目で二人を見つめていた。
「だって、シュビスタシアはいわば、このミュレス国の発祥の地ともいえるんだよ? というのも……」
「それは分かった、分かったよ。でもね、一番忘れてはならないことを忘れているわよ」
「え?」
エルルーアはたて続けに厳しい言葉を投げかけてきた。
「フェルファトアさんから聞いたわ。そもそも、姉さん達が旗揚げの町を、3人が集まったシュビスタシアじゃなくて、わざわざ川を挟んだ隣町のトリュラリアにした理由」
「それは……」
「シュビスタシアを攻略するには人も武具も足りなかったから……」
ティナとエレーシーはお互いの顔を伺いながら、申し合わせたように答えた。
「でしょう? それに、これまで大街道沿いの町を派手に攻めてきているから、多分これまで以上に、簡単には明け渡してくれないのは確実ね」
これまでになく厳しいエルルーアを見て、何があったのだろうかとエレーシーは考えた。
「エルルーア、もしかして緊張してる?」
「別に、そういう訳じゃないの」
エレーシーの疑問も、エルルーアは即座にはねのけた。
「エルルーア、何かあったの?」
ティナも、その冷たさに思わず口を挟みたくなってしまった。
「いや、姉さん、別に本当に何もなくてね、ただ、私達はそういう大都市に攻め入ったことがないという話よ。トリュラリアからここまで、小さな都市で小競り合いを続けてきたわけだけど、それがシュビスタシアのような大都市になると違ってくるかもしれないわよって話」
「でも、ノズティアは……」
「確かにノズティアは東の代表都市だわ。だけれど、この町で共同宣言ができたのだって、ただ運が良かっただけでしょ?」
「運が良かっただけって……」
「姉さん。別に攻めてるわけじゃないわ。だけれどね、共同宣言が出来たのも、たまたま騒ぎを聞きつけたミュレス人市民の皆さんが集まって、大きな騒ぎになって、第三民族の市長のご厚意もあって共同宣言が出来たわけ。でもシュビスタシアは全く違う。政治的、軍事的な面では完全にこちらが不利なの」
「つまり……?」
「結論から言えば、まだまだ人手不足のように思えるということよ」
エルルーアはいつになく胸をはって言い切った。
「エルルーア、貴女の心配もごもっともなのだけど、人をたくさん引き連れるというのは、いろいろと大変になるのよ……食糧とか、宿泊の問題とか……」
エルルーアの熱のこもった提言だったが、ティナはやんわりとなだめた。
「でも、これから先、それ以上に大きなポルトリテや、最終的には地上統括府市にも攻め込むんでしょ? それなら、絶対にここで大規模で挑むべきよ。私達にはワザはない分、量で勝負するしかないんだから」
「……まあ、人数は多いに越したことはないけどなあ」
エレーシーは、エルルーアに圧されたのか若干乗り気になっていた。
「そうね……二人がそう言うなら、そうしましょうか。幸い、大街道沿いの町はほとんど制圧してるから安全だと思うし、ノズティアも共同統治だからそれほど人員もいらないわね……分かったわ。最低限残してすべて、シュビスタシアまでついてきてもらいましょう」
「いいと思うよ。じゃあ、明日、みんなに言ってみるね」
次の日、エレーシーはノズティアでたっぷり休憩をとったミュレス国軍兵士達と、ここで仲間となったノズティア市民達を広場に集めた。
「みんな! 我々ミュレス国軍は、本日、ノズティアから西へ向かって進軍する! 天政府人もいるので詳しくは言えないけど、次は中枢的な地方都市の奪還に挑む予定だ! したがって、我々は多くの人員が次の作戦に必要だと見ている! かくなる上は、できるだけ多くの者に、我々について来て欲しいと思っている! 兵士のみんなはもちろんのこと、協力していただけるのならば、昼の2回目の鐘とともに、西の門より出発するので、ぜひついて来て欲しい。兵士のみんなは、鐘がなる前に西の門へ集合すること。以上!」
昼の1回目の鐘が鳴って少し経った頃、エレーシー達が西の門に来てみると、既に大勢の人々が集まっていた。エレーシーの感覚で言えば、この街に来た時よりも5割増し程度にまで増えていた。
「どうかしら、エルルーア。このくらいいれば……」
ティナは、先程不満を口にしていたエルルーアの様子を窺った。
「確かに増えてるようね。シュビスタシアの規模からするとまだ足りないような気もするけど、この街ではこれくらいが限界かもしれないわね……トリュラリアまで街はいくつかあるし、その間でも集めていきましょ」
エルルーアは、まだ満足していないようだったが、必要最低限は集まったと何とか納得したようだった。
「みんな、必要なものはすべて準備出来た?」
エレーシーは兵士達に行軍に必要なものを確認させ、自分達も経路の確認などをしている内に、2回目の鐘が鳴り始めた。
「あ、2回目の鐘だ」
「それじゃあ、そろそろ行きましょうか」
ティナの合図とともにエレーシーが剣を振るうと、前の方から次第に動き始めた。
ミュレス国軍は、長い列を成しながらノズティアの街を後にしていった。




