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四二 作戦会議

 6人は宿につくと、いの一番に輪をなして会議を開き始めた。

「非常にまずいことになったわね……」

 フェルファトアはずっと頭を抱えて悩んでいた。

「まずいこと……ですか」

 いまいち理解できていない兵士が問うた。

「まずいことよ。トリュラリアの制圧が知れ渡ると、天政府人は絶対に我々ミュレス国の行動を抑えにかかろうとするに決まってるもの」

「ああ、確かにそうですね。みすみす見逃すなんてことは無いですよね……」

「例えば、街道沿いでの検問。これはシュビスタシアの近くじゃ、もうやってるんじゃないかと思うけど……」

「検問って?」

「危険なものを持ってないかとか、どこの人で何をしてるのか、これからどこに行くのか等を調べるのよ。これがあると思って、こっちの街道を選んできたんだけど、ヴェルデネリアの近くでやってると、これは厄介よ……」

「私達、モノを持ってしまえばどこからどう見ても普通の人じゃないですからね……」

「でしょう? そうなったら、どうしても力でねじ伏せるしかないよね。不本意な戦闘は、避けられるなら避けたいわ」

「大事なのは、ヴェルデネリアの制圧ですもんね」

 この兵士の一言には、誰もが頷いた。

「そう。だから、検問所が作られることを恐れているわけ。あと、次……ミュレス人の外出制限よ」

「私達、ただでさえ制限されていましたけれど……」

「貴女はそうだったのかもしれないわ、特に屋敷住まいだったりするとなおさらね。でも、私のような商人だったり、外に仕事があったりする人って、意外と自由に外を出歩けることも多いわけ」

「そこは人それぞれですけど、そういえばシュビスタシアの人って、結構自由に外出歩いていますよね」

「あそこは港湾関係者が多いから。特にそういう流通に関わる人達は、屋敷住まいの人に比べれば自由は多いと言えるかもしれないわね」

「給料はともかくね」

「それで、一旦外出制限が出ると、これも厄介なの。まず、私達の協力者と会えなくなる可能性が出てくるでしょ?」

「うーん……向こうの協力者の『代表』って、どんな人なんですか?」

「ヴェルデネリアの代表の人? 彼女は確か、郵便屋だったような……」

「じゃあ、彼女に会えば手紙で招集が出来るじゃないですか」

「まあ待って。外出制限が出るってことは、その人との接触も危うくなるわけよ。それに、そうなってくると手紙の内容だって見られるかもしれないし、危険になることは間違いないと思うわ。それに、外出制限が出るとなると、私達が街の通りを歩いていたら間違いなく目立つはずよ。それも避けたいわね」

 兵士達は、フェルファトアの意見に圧倒されていた。

「というわけで、ヴェルデネリアに着いてから準備期間なんて言ってる場合じゃ無くなってきたみたいだけど……」

 フェルファトアは兵士達の顔を見ながら、案を持ち寄らせる為に考えさせた。

「うーん……そうですね……私達が早くヴェルデネリアに着く必要はあると思いますね」

「まあ、それは大前提よね。でも、私達は何か馬や馬車のようなものを持ってるわけじゃないから、ここからなら少なくとも、2日は掛かるでしょうね」

「相手は天政府人ですからね……2日もあれば結構、策は講じられちゃいますよね……」

「天政府人は手が早いからなあ……」

「じゃあ。こちらも馬で行きますか」

「行くと言っても、みんな馬に乗れるわけじゃないから、馬車になるわね。でも、それも相当目立つと思うけど……」

「うーん、何かないかなあ……」

 6人で頭を捻らせてみても、なかなか思うように案が浮かんでこなかった。座って考えることに飽きたフェブラは、布団に身を預けつつも考え続けた。

「向こうは向こうで、準備を進めておいてくれないかなあ……」

 その言葉にいち早く反応したのはフェルファトアだった。

「そうねえ……準備を進めておいてくれたら、か……それはいいかもしれないわね」

「でも、どうやってですか?」

「それなのよね……うーん……」

 フェルファトアは、先行して準備を進めてもらう体で、さらに手段を考えるべく辺りを見回したり、自分の荷物を探り始めた。

「そうね……あ、そうだ」

 フェルファトアは鞄の中から紙束を取り出し、その中の一枚を手にとった。

「ヴェルデネリアの協力してくれる有力者に手紙を書きましょう! そうすれば、先に準備して待っておいてくれるはず!」

「手紙、ですか?」

「そう。馬車郵便なら、次の日にはもう届いてるはずだから、私達よりも早く着くはずよ」

 フェルファトアはにこやかに答えた。

「なるほど。それなら、なんとか街道閉鎖や外出制限される前になんとかできるかもしれませんね」

「というよりも、それぐらいしか出来る術がないのよ。じゃあ、そうと決まれば、明日の朝までには手紙を完成させないとね……」

「私達も明日の朝出発でいいですよね?」

「そうね。郵便屋さんに頼んだら、この町を出ましょう」

 話が終わるやいなや、兵士達は各々のベッドメイキングを済ませてさっさと床についてしまった。兵士達は特に何も訴えていなかったが、これまでの強行軍の疲れが出始めているように感じた。一方、フェルファトアは一人、暖炉の灯りを頼りにしながら手紙の文面を考えつつ、紙をじっと眺めては筆を走らせ始めた。


「それじゃあ、この手紙をヴェルデネリアまでお願いね」

 次の日、一行は町を出る前に郵便屋に寄り、手紙を郵便業者に託した。

「なるべく早く届けてほしいんだけど、いつ頃届きそう?」

「馬車便なら昼前に出ますからね、今日の夜、遅くとも明日の昼か夕方には届くんじゃないかなあ」

「じゃあ馬車便で」

「分かりました」

「……あっ、そういえば、ここからヴェルデネリアまでの道で何か検問みたいな事してるとかって情報聞いてる?」

「検問とか? うーん、聞いてないけど……」

「そう、ありがとう」

「……あっ」

 6人が用事を済ませて郵便屋の玄関を出ようとしたその時、受付の人が思い出したように声を上げた。

「ここからヴェルデネリアじゃないけど、ヴェルデネリアから地上統括府市と、ポルトリテまでの間では検問を始めたみたいだから、そっちの方はいかないようにね。地上統括府市じゃ通行管理もしてるらしいからあまり行かない方がいいかもね」

「……ありがとう!」

 6人は、郵便屋のすぐそばでまた輪になって会議を始めた。

「西側じゃもう検問始まってるって?」

「ポルトリテ、地上統括府市……とりあえず手の付けやすい主要都市沿いから始めたようね。それに通行管理? っていうのも始まってるって言うし……」

「通行管理ってなんですか?」

「私にも分からないけど、多分、外出制限の一つじゃないかな……」

「これまで以上に締め付けが強くなってるのかな……」

「と、とにかく、ヴェルデネリアをミュレス国の手に収めるのよ! 私達西軍の務めを全うすること、それに今は集中しましょう。さあ、こうなったら、一刻も早くヴェルデネリアに着かないと……」

「私達も馬車を使いましょうよ、フェルファトアさん」

「そうね……それも考えておきましょう。とにかく、今日ももしかしたら泊まれないかもしれないし、食料は朝市で買い込んでいきましょうか」

「はい!」


 フェルファトアは、ここに来て初めて自分で取った舵の先にあるものの一端を捉えつつあった。そして、既に引き返すことが許されない所に立っていることを改めて意識した。

 それは前のトリュラリア占拠で感じたものとは全くの別物だった。

 地上統括府、そして、その上にある天政府それ自身を相手取った戦い。

 数百万の天政府人と、それに匹敵する数のミュレス民族。これから、その先頭に立つことを考えると、自分で始めたこととはいえ、若干の身震いを感じざるを得なかった。

 フェルファトアは、一旦遠い(あるいは、非常に近い)未来の事を考えるのは止め、自分達西軍に課せられた指令を全うすることだけを考えようと始めた。

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