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四一 酒場での噂話

 味にも慣れた頃、一人の白猫族の女が酒場に入り、慣れたようにテーブルに着いた。フェルファトアはその女から商人の雰囲気を感じていた。その商人と思しき女は、壁に書いてあるメニュー表を見ることもなく、流れるように二品、三品ほど注文すると、自ら水を汲んで席に着いた。

 また別の客が入ってくると、その女は入ってきた客に対して陽気に挨拶をした。

「やあ、リネニア」

「あ、ルーウェル。今日はなんでまたエルントデニエに?」

 客は挨拶を返しつつその女の前に座り、こちらも流れるように料理を注文した。

「リネニア、私がエルントデニエにいるのが珍しい?」

「別にそういうわけじゃないけど、この季節はずっと大街道沿いの街に行ってると思ったから……」

「今日もそうだよ」

「ますますおかしいよ。この街道じゃ遠回りになるじゃない」

 リネニアは首を傾げて、全く理解できないという意思を表した。

「うーん、私もあまり通る気にはならなかったんだけど……」

 ルーウェルは顔を近づけて話を聞かせた。

「ポルトリテの港にいた漕ぎ手に聞いた話なんだけど、最近、中央地域の空気がどうも不穏らしい」

「……不穏?」

 リネニアは一気に顔を曇らせた。

「不穏というか、きな臭いというか」

「きな臭い……」

「大街道をずっと東に行った所にハリシンニャ川の渡しがあるでしょ?」

「ああ、あるね」

「今、そこが渡れたり渡れなかったりしてるらしい」

「えっ、そうなの? !」

「そう。快走郵便屋(註:特に馬車などを用いる郵便業者のこと)の話だけどね。シュビスタシア側が受け入れなかったり、かといえばトリュラリア側も受け入れなかったりしてるらしいよ」

「え? どうして?」

「詳しいことは私にもわからないけど、シュビスタシアとトリュラリアの仲が急激に悪くなったみたい」

「でも、トリュラリアも村と違って、天政府人が町長なんでしょう? ミュレス人村長と地上統括府の仲が悪かったりして、道が検問だらけになるのはよくあるけど、どうして……」

「うーん、なんでだろうね……どうもミュレス人がトリュラリアの町長になったらしいという話もポルトリテで聞いたけど……」

「それは考えにくいと思うけどなあ……」

「でも……」

 いくら噂をつなぎ合わせても、ルーウェルは結局リネニアの納得の行く説明をすることが出来ず、二人は料理が来たのも気づかずに、ひたすら頭を抱えるばかりであった。


 フェルファトアは、先程の二人組の話にずっと耳を傾けていた。

 間違いなく、自分たちの引き起こしたトリュラリアでの建国宣言の事が、シュビスタシアやヴェルデネリアを通り越して、西の港町ポルトリテまで伝わっていることが窺えたからだった。

 暗雲立ち込め、雷の閃く荒海を行くような気がした。

 ふとフェルファトアが前にいる兵士達の顔を見ると、一様に不安そうな表情を浮かべていた。

「皆、何気ない振りをして食べきっちゃいましょう。食べたらすぐに、宿に行くわよ」

 そうはいっても、はやる気持ちは抑えきれず、先程よりも二割増しの速さで目の前にある料理を平らげはじめた。フェルファトアも、慌てて店員にお金を渡し、一斉に逃げ帰るように酒場を後にした。

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