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ミュレス帝国建国戦記 ~平凡な労働者だった少女が皇帝になるまで~  作者: トリーマルク
第三章 ノズティア・ヴェルデネリア蜂起 ・ 第九節 エルプネレベデアの戦い
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二八 エルプネレベデア西門の戦い

 緊急事態のために駆り出された門番の集中力が途切れ始めた午前3時相当の頃、西の門番の一人が、街道の彼方から大量の人影が押し寄せてくるのに気がついた。


「何だ、あれは?」


「あれは……町長の言ってた、例のトリュラリアの事件の一団かもしれん。ざっと見て……数十人のレベルじゃない。何百人はいそうだ……」


「あの量じゃ二人でどうこうできる問題じゃない! 早く治安管理所に連絡だ! お前も近くの待機所に知らせに行け!」


「は、はい!」




 二人の門番が離れて無人と化したゲートは、もはや町と街道を区切るただの印となった。


「よし! 誰もいないぞ! 皆、心してかかれ! 潜んでるかもしれないよ!」


 エレーシーは先陣を切り、隊を率いて街道をひたすら東進した。


「気をつけて! ここからは相手が有利だということを忘れないで!」


 エルルーアもその後ろから声をかけ、兵士に注意を促した。


「防御隊は前に出て! 総司令官達をお守りして!」


 エルルーアの言葉を合図に、盾を持った兵士達が合間を縫ってティナ達の前に並び、エルプネレベデアの西のゲートを通ろうとしていた。


「もう門のところまで来てるぞ!」


「少し出遅れたか……?」


「何としても門の所で食い止めるんだ! あのトリュラリアで町役場が陥落したんだ。絶対に役場まで行かせるなよ!」


 町のいたる所に配備されていた治安管理員達が、ティナ達ミュレス国軍の進軍の早さに驚きつつも、西のゲートへ集結しつつあった。


「やっぱり出てきたわね……剣術隊は防御隊の更に前に出て! 交戦開始!」


 ティナは、腰に差した自らの剣を振り、交戦開始の合図を示した。


 負けじと治安管理員達も一斉に剣を抜き、ミュレス国兵士達に向けて剣を振るいながら突撃していった。


「数で圧して! 向こうは訓練された剣術使いだよ!」


「左が薄くなってるぞ! 手が空いてたら左に回れ!」


 真夜中のエルプネレベデアの町は一気に殺気立った。


 あちらこちらで剣と剣の為す鋭い金属音が、町の通りに響き渡り、所々で光る火花は、ミュレス人の目を眩ませていた。


「ティナ姉さん、負傷者が出始めてる。弓矢隊が必要だわ」


 エルルーアは、路端で倒れ込んでいる兵士の姿を見て焦りを感じ始めていた。


「そうね……弓矢隊! 左右に分かれて弓を放て! 剣術隊を援護して!」


 ティナも必死の形相で軍の舵取りに専念した。


 一方、エレーシーは剣術隊の先頭に経ち、次々と現れる治安管理員と剣を交えていた。


「ミュレス人のくせに、中々しぶといな。一体どこで剣術を覚えたんだ?」


 治安管理員の吐き捨てた愚痴に答える間もなく、ただただ差し出された剣を自らの剣で受け止めるのが精一杯だった。


 このままでは集中力勝負になるのは目に見えていた。


 エレーシーもなんとか相手の隙は無いか見極めたいが、相手の出す剣の速さも中々なもので、そのような暇さえなかった。


(一対一ではどうにもならないな……どうにかして相手に隙を作らせなければ……)


 周りでは天政府人と同様にミュレス人の甲高い叫び声も聞こえ、視界の端では救護隊によって後ろに引きずられていく仲間の姿も見えた。


(このままでは、我軍にも死者が出てしまう……なんとかして、手早く役場へ……いや、まずはここの攻略か……)


 エレーシーは剣の対処を本能に任せ、理性的に今後の展開を探るべく頭を最大限に働かせて考え続けた。




 交戦を始めて数分経った頃、エレーシーに剣を向けている治安管理員がふと上を向いた。


「おっと!」


 その治安管理員は、頭上に飛んできた弓矢に直近の距離で気づき、防衛本能のなすがままに盾を頭上に掲げ、弓矢を弾いた。


「今だ!」


 エレーシーは、その一瞬の隙を見逃さず、すかさず剣をガードの空いた腹部めがけて剣を突き刺した。


「うああああああああ!!」


 剣を抜くと、腹からはこれまでに見たこともない程に大量の血が噴き出した。


 治安管理員は剣を放り出し、腹を押さえながらその場に仰向けになって倒れた。


「隊長がやられた! 管理所に運んでくれ!」


 その男が倒れるやいなや、場の雰囲気は天政府有利からミュレス軍有利へと一変した。


 どうやら、エレーシーと交えていたのは、その場の治安管理員の中でも一番の頭だったようだ。


「隊長!」


「治安管理隊に入った時から、こういう覚悟は出来てる。それより、絶対に役場まで辿り着かせるな。地上統括府長に顔向けできないぞ」


 治安管理隊長は、その一言を言い残しながら、別の治安管理員によって町の奥の方へ運ばれていった。


 命を受けた治安管理員達は、隊長の遺志を引き継いで交戦に躍起になったが、どうも動きが鈍くなってしまっていた。


 どうやら殊勝だったのはあの隊長だけだったようだ。


 再び数分もすると、訓練とは違う戦いに疲れて戦意を喪失した者、大小様々な怪我を負ってうずくまる者などで、天政府人にとっては目を覆いたくなるような光景が広がっていた。


 一方でエレーシーは、何とかこの場を切り抜けた事に安堵の顔を見せた。


 しかし、これにいち早く気づいたのがエルルーアだった。


「エレーシーさん、エルプネレベデアの攻略はまだ終わっていませんよ。役場を自分のものにして始めて、攻略なんですから」


「え、あ、ああ、そうだよね。……よし! 皆! この勢いのままに町の中枢へ攻め入るぞ! 負傷なき者は続け!」


 エレーシーは再度気を引き締め直し、兵士に進軍を命じた。




「あ、総司令官!」

 街道沿いの宿から、一人の黒猫族の女が飛び出してきた。


「ワーヴァ、久しぶりね」


「まだ半日ぐらいしか経ってないですけど……」


「で、どう?」


「はい。エルルーアさんに言われたとおり、ちゃんと広めてきましたよ! あ、それと、町をパーっと歩いて、役場の場所も確認してきました!」


「よくやったわ、ワーヴァ。それじゃあ、案内の方、よろしくね」


「はい!」


 ワーヴァは、エレーシーの横につき、街道をまた東に進みながら案内していった。


 道中、治安管理員の姿は見当たらず、何の障害もなく役場の前に来ることが出来た。小さな町でもあることだし、治安管理員達は本当に西のゲートに全員集まっていたのだろう。


 エルプネレベデアの役場は、トリュラリアのようにガッチリとした門が備えているわけではなく、辺りの商店などと同化していて、機能を何よりも重視した非常に小ぢんまりとした役場だった。


 エレーシー達は役場の部屋という部屋を手当たり次第に開けて確認したが、役場はもぬけの殻だった。


「おかしいな……町長もいないとは」


「どこかに隠れてるんだ……」


 ティナとエレーシーは首を傾げながら、役場から出てきた。


「勝手に町を放棄して逃げたのかしら?」


「そっちの方が好都合だけどねえ……」


「あ、エルルーア。ちょっと、私が帰ってくるまで、みんなと一緒にここを取られないように見守っててくれない?」


 ティナは、兵士とともに歩いていたエルルーアの姿を見つけて呼び止めた。


「いいよ、姉さん。どこかに行くの?」


「町長が見つからないのよ」


 すると、エルルーアは顎に手を当てながら考え始めた。


「うーん、普通、町長がいるところって限られるよね。家か、役場か、そうでなければ……例えば、治安管理所は?」


「治安管理所ね、確かに、こういう非常事態では一番安心な場所かもしれないけれど……」


「治安管理所か……」


 ティナ達は、敵方の本城を再び攻める事になるため、あまり気乗りはしなかった。


「また、大軍で行かなくちゃ行けないのかなぁ……」


「もうその段階ではないわ。治安管理員の姿も見ないし。私達の目的はあくまでも、『町長に降伏してもらう事』よ」


 ティナはエレーシーの肩を叩いて安心させようとした。


「そ、そう? まあ、総司令官が言うなら……」

 エレーシーは、ほっと胸をなで下ろした。


「さてと、治安管理所に行くのはいいけど、私達でいいの?」


「そうね……町長がいたらその場で済ませたいし、行くしかないわよね……」


「とはいえ、トップの二人が先陣切ると、いざという時に困るからねぇ……そうだ、誰かを先につけようよ」


 エルルーアは、ティナに誰か二人程選んで付いてきてもらうことをおすすめした。

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