二六 次の町へ
2時間後、エレーシーが様子を見に行くと、ざっと見て約1割程度人数が足りない事に気がついた。
「あれ? なんか、少なくなってない?」
エレーシーは小声で、横にいたティナに問いかけた。
「ええ、確かに2時間前よりも少なくなってるわね。まあ、大方、昨日の戦いから一晩経って、いざ遠征となった時に『戦う事』に恐れを為した人もいるのでしょうね。寂しい事だけど、無理強いしてまで引っ張り出すのも可哀想だわ……仕方がないわ。逆に言えば、ここにいる人は自分の身を呈してでも、民族の為になりたいと思ってる人なのでしょうから、ある程度は覚悟できてると思うわ。後は……町ごとに集めていくしかないわね」
「そう……」
ティナの真っ直ぐな目に圧されながらも、エレーシーは再び兵士の群へ目を向けた。
「よし、集まったね。それじゃあ、いざ、エルプネレベデアへ!」
エレーシーは、さっと身体を、中央広場から伸びる道の先にある東門へ向け、歩き出した。
ティナはその横をついていき、後にエルルーアが続いた。
やがて兵士も、3人の後ろに列を為して歩き始めた。
エルプネレベデアへの行軍が始まったのだった。
「エルプネレベデアまでは一本道なので、分かりやすいとは思いますけど……」
ワーヴァはティナとエレーシーに先んじて進んでいた。
水先案内人になるためには、先頭を任せられる事でもあるので、剣と盾、防具の3点セットをしっかりと持たせていた。
要は、用心棒としての役割も兼ねさせていたのだった。
「そうは言っても、脇道から何が飛んでくるか分からないし、ワーヴァには、そういう目でも案内してほしいな」
「わ、脇道ですか?」
「脇道でも、物陰でも。とにかく、つつがなくエルプネレベデアの門まで行軍が出来るように、案内してね」
「わ、分かりました……」
ワーヴァは自分の役割が持つ責任が非常に重いことを今更のように感じ取り、一層唇を噛み締めてティナの横を歩き続けた。
「ところで、エルプネレベデアの町はどうやって攻めるつもり?」
歩いている途中、ティナはエルルーアから突然の質問を受けた。
「うーん、トリュラリアみたいに奇襲で攻めようかと思ってるんだけど」
「門についたら勢いをつけて突入するってこと?」
「そう……かな?」
「フワフワしてるよねぇ……それに、それをやっちゃったらミュレス人の死人が沢山出るでしょ」
ティナはエルルーアからの厳しい指摘に一度足を止めた。
「死人が……?」
「そりゃそうよ。そんなことをしたら、天政府人だって身を護るに決まってるでしょ。絶対に兵士だろうが一般町民だろうがお構いなしに、ミュレス人と見れば攻撃してくると思うよ」
「そ、それは困ったわね……」
「よし、一旦休憩!」
エレーシーは話が長引きそうなのを察し、後ろを歩く一般兵士に号令をかけた。
兵士達は緊張を緩めるために息を吐き、その場に座り込んで、しばし雑談に興じた。
「トリュラリアは街の中に兵士の皆さんがいたからこそ出来た奇襲よ。まだトリュラリアの事もそんなに広く広まってるとは思えないし、門から突撃して一番ビックリするのは私達の仲間じゃない?」
エルルーアは姉に向かって懸命の説得を始めた。
「そうはいってもねぇ……どうしたものでしょうかね……」
ティナ、エレーシー、エルルーアの3人は度々後ろの方から聞こえてくる談笑をよそに、真剣な眼差しで案に案を重ねた。
それから小一時間の後、3人はお互いを見ながら頷き、エレーシーはすっくと立ち上がった。
「皆! これから我々は、いよいよエルプネレベデアの天政府人と一戦を交える! これからその作戦について、タミリア総司令官から説明するので、一言たりとも漏らさず聞くように!」




