二七四 建国前夜
そこから、ミュレス軍の動きは一層激しくなった。
幹部達は明日からの国のあり方について、さらに議論を深め、その間、兵士達は明日の集会のための準備と周知に奔走した。
これからはまた、戦争とは違う、忙しい日々が続くことになる。
今日という日は、その民族の新たな出発の始動日としてはふさわしいほどに、激しい一日となった。
会議が終わった頃には、日はとっくに沈み、夜を迎えていた。
エレーシーは市役所を出る前に、フェルファトア、エルルーア、アビアンを呼び止めた。
「皆、今日は私は宿屋には泊まらないから」
「じゃあ、今晩はどこに?」
エレーシーはその質問に、少し間をおいて答えた。
「今日は、私が住んでいた部屋に泊まろうと思う」
その言葉に、フェルファトア達は特に驚きはしなかった。
「そうね……今晩は特別な夜だものね。エレーシーにとっては、一人になれるあの部屋が一番落ち着くかもしれないわね」
「ありがとう。それじゃあ、明日の朝に、また」
エレーシーはそう言うと、護衛役の兵士を引き連れて他の幹部と別れた。
また、この部屋に帰ってきた。
エレーシーは昨日も訪れたこの部屋で、今度は一晩過ごすことにした。
ミュレス帝国の建国を宣言する前の最後の夜は、どうしてもこの部屋にいたかった。
エレーシーは明日の集会のための準備物を確かめていると、荷物の中にあった教科書が目に留まった。
それは、そもそもフェルファトアから貰った地上統括府が発行した教科書である。
今となっては、何度も読んだのでもう覚えたようなものだが、これがこの戦争を始め、独立を果たした今、改めて見るとなかなか感慨深いものであった。
「明日には状況は一変する、か……」
エレーシーの意識は、既に翌朝の集会に向いていた。
この集会が、今回の戦争の集大成となる。
そして、これから始まる帝国建国の第一歩でもある。
エレーシーは過去を振り返るのもそこそこに、翌朝に備えて眠りについた。
日が昇れば、エレーシーは皇帝として、広大なミュレシアの統治者となる。
その時がいよいよ迫っていた。




