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二七〇 シュビスタシア講和条約調印式

 会場にこの戦争の重要人物が集まり始め、いよいよ始まるかという雰囲気が高まってきたところ、次に現れたのがエレーシー総司令官とサティリア総裁であった。


 彼女達も、それぞれの入口から同時に入場し、通路の中央をほぼ同じような速度でゆっくりと歩き、机の前で立ち止まった。


 机は向かい合うように設置されているので、自動的にエレーシーとサティリアもお互いに向かい合ってその場に立つようになる。




 そのまま、誰も身じろぎすら出来ないような厳粛な空気の中でしばらく時間が経つと、今度は同じように、ミュレス大国側からはアビアンが、そして天政府側からはリーナイアが文書を持って同時に入場し、さっさと中央まで歩き、エレーシーから見て机の右側に立った。


 そして、アビアンとリーナイアは文書を開き、内容を確認した後、それぞれが持っている文書を交換し、お互いに書かれている文書が同じものかどうかを確認した後、再度交換し直した。


 その後、二人とも文書を開いて頭上に掲げ、その場にいる全員に見せるようにその場で回ると、お互いの総司令官と総裁にその文書を渡した。




 エレーシーとサティリアは内容を確認すると、一文ずつ、まずはそれぞれの言語で読み合った。


 講和条約の文書には、ミュレス民族の言語であるミュレス語、天政府人の言語である天使語、そして共通語である南大陸語の3つで書かれており、お互いに自分の言語と南大陸語の二つで読むことが、この式典のしきたりとなっている。


 エレーシーは南大陸語にはあまり馴染みはなかったが、ポルトリテで内容を決めて以来、せめてこの文章だけはと、書いてある内容の南大陸語を暗記してこの場に臨んだ。


「天政府とミュレス民族の戦争状態は、この文書にお互いの代表者が署名した時点で終結とする」


「天政府は、地上統括府を閉鎖する」


「天政府は、ミュレス民族を主とするミュレス新国の建国を認める」


「天政府は、ミュレス新国に地上統括府の施政、領土、領海、財産、その他天政府地上統括府が有する全

てを譲渡する。また、天政府は、ミュレス新国に地上統括付の領土、領海内に所有する財産の全てを譲渡する」


「天政府は、ミュレス新国の施政に一切関与しない」


「天政府は、ミュレス新国に戦争に係る賠償金、処罰等を求めない」


「ミュレス新国は、天政府に戦争に係る賠償金、処罰等を求めない」


「天政府は、ミュレス新国に新国運営支援金として100万フェルネを1年毎に10年間支払う」


 この他にも条文の読み上げは続いたが、それでもミュレス民族に有利な条約であることは明確であった。


 当然といえば当然かもしれないが、明らかにミュレス民族にとっては悲願のものであり、天政府としては屈辱以外の何物でもないような内容であるが、エレーシーもサティリアも式典と割り切ったのか、淡々と読み上げていた。




 文書に書かれた条文を読み終えると、二人とも文書を机に置き、椅子を静かに引き、そこに腰掛けた。

 その動きも、二人とも同時である。


 二人が席に座るのを確認すると、アビアンとリーナイアは、懐からペンを取り出すと、お互いに交換し、そのペンに異常がないことを確認すると、お互いに返し、それぞれの代表者に手渡した。


 アビアンからペンを渡されたエレーシーは、机の上に置かれたインクをペン先に浸し、そこで一息つき、自分の心が定まるのを一旦待とうとした。


 しかし、自分の向かい側にいるサティリアがペンを走らせているのを感じると、その場でハッと思い直し、同じようにサラサラとペンを走らせ、講和条約の署名欄に自署を行った。


 その後、二人とも署名が終わったのを確かめると、それぞれの文書を手渡して交換し、同じように署名を行うことで、お互いに署名した文書が二部出来上がったわけである。


 署名が終わると、椅子から立ち上がり、会場に集まった全員にそれを見せ、先に読み上げた講和条約が、ミュレス大国改めミュレス新国と天政府の間で結ばれたことをその場にいる全員が認めることとなった。


「わあああっ!」


 その瞬間、ミュレス新国側の幹部達は歓声を上げた。


 歓声響き渡る中で、エレーシーはアビアンに、サティリアはリーナイアに文書を渡し、机から少し横に移り、お互いに握手を行った。


 エレーシーは明るい顔で握手をしたが、サティリアも穏やかな顔で応じた。


 それは儀礼的なものではなく、心の底からのものに感じられた。


 二人が握手をすると、さらに大きな歓声が湧き上がり、ミュレス新国側からも天政府側からも絶え間ない拍手が会場を包んだ。




 二人の長い握手が終わると、アビアンとリーナイアが二人の近くに歩み寄り、ミュレス新国側の出口へと誘導し、四人は会場を後にした。


 それを見送ったフェルファトアとエルドも、同じ方向へと退場する。


 後に残されたのは、ミュレス新国の軍幹部とシュビスタシア市職員達、そして天政府側の上役達と事務官である。


「以上で、調印式は終了となります。皆様、お疲れ様でした。ここから先は自由解散です。お気をつけてお帰りください」


 ミュレス大国軍の運営役の兵士が叫ぶと、それまでに張り詰めていた緊張感が一気に解け、それぞれがぞろぞろと会場を後にした。


 その中でもミュレス新国の幹部はまとまって動いた。

 それを先導しているのがエルルーアであった。


「皆、総司令官と統括指揮官はこれから別室で天政府との会議の後、帰ってきます。私達は一足先に市役所に向かって、総司令官達の帰還を待ちましょう!」


「はい!」


 エルルーアは事務連絡を行うと、出口の方に走り出し、幹部達一同を誘導した。

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