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ミュレス帝国建国戦記 ~平凡な労働者だった少女が皇帝になるまで~  作者: トリーマルク
第三章 ノズティア・ヴェルデネリア蜂起 ・ 第九節 エルプネレベデアの戦い
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二五 水先案内人

「みんなー!」


 エレーシーは、先程中央広場に招集をかけた2000人のなりたて兵士を眼の前に、力一杯の大声を張り上げた。


 他の兵士よりも着飾った出で立ちに、兵士たちは思わず背筋を正した。


「おはよう! 改めて自己紹介をする。私は、ミュレス国……軍……統括指揮官のエレーシー・ト・タトーだ」


 兵士の皆に甘く見られぬよう、自分の考えうる限り最大の威厳を示すべく、胸を張った。


「さて、昨日は皆の活躍もあり、我が軍は無事に、このトリュラリアを征圧することができた!」


 征圧の二文字を口にした瞬間、場は一斉に湧き上がった。


「しかし、この恩恵は、このトリュラリアだけが得てよいものだろうか? いや、違う。この恩恵を授かるべきなのは、この大地に住むミュレス民族全員だ!」


 兵士は呼応するように短く声を上げた。


「しかし、このミュレス民族の住む地全てを我々のものにするためには、まだ多くの兵士が必要だ。それに、都市はまだまだ、沢山存在する! ましてや、地上統括府打倒にはまだまだ遠いと、タミリア総司令官は言っている!」


 広場の兵士は、皆、これから何が起こるのだろうかとお互い顔を見合わせながら小声で話し合った。


「そこで、我々は、まず、東に攻め入る事とする。この天地街道をひたすら東へ進むのだ。東端の町、ノズティアまで!」


 辺りから、ノズティアという単語が飛び交った。


「まずは、これより東の町、エルプネレベデアに攻め入る! 時間は、えーと……2時間経ったら出発することにする! 皆、決意を固め、荷物を持ち、再度ここへ集合するように! 以上!」


 エレーシーの合図とともに、2000人の兵士は一斉に広場から散り、各々の家や宿に帰った。


 そして、家族に次に会えるとも分からない別れまでの時を過ごしたり、荷物を纏めたりして過ごした。




 ずっと故郷とシュビスタシアでしか生きてこなかったティナとエレーシーは、ハリシンニャ川以東の地理など全く知る由もなかった。


 これまで地理を熟知していたのは、国土全域を歩き回って教科書頒布の任を果たしてきたフェルファトアだったが、彼女が本隊から離脱した今、ティナ達には新たな水先案内人がどうしても必要だった。


 二人は、彼女に代わる新たな人材を軍の兵士の中から探さなければならなくなった。


 そして、その人物はいとも簡単に見つかった。


 フェルファトアが去り、皆に身支度を呼び掛けた後、二人は中央広場に面した一軒の小さな家を訪れていた。


「こんにちは」


 ティナがドアを開けると、カウンターの奥でせわしなくゴソゴソと荷物を詰め込んでいる人影を見つけた。


「ちょっと今日は閉めてて……あ、貴女は!」


 カウンターの奥の人物は、いきなり現れた二人を見てたいそう驚いたようだった。


「荷造り中失礼するわね。貴女、トリュラリアから東にはよく行ってるわよね?」


 ティナが問いかけると、その人は顔を上げて、服を手で叩きつつ答えた。


「ええ、それが仕事だから……でも、どうしたんですか? 私に、何か?」


 顔を上げた人物は、ティナと同じ黒猫族の者だった。


「貴女は知ってるとは思うけど、私はこの街から東の事は何も知らないのよ。今までは導いてくれる人がいたんだけど……大変だろうけど、ノズティアまでの道案内を頼めるかしら?」


「ノズティアですか……わかりました。私でよければ、ティナ……じゃなかった、総司令官の力になりますよ」


「ありがとう。頼りにしてるわ」


 ティナはカウンター越しに彼女の手を取ってぎゅっと握ると、飛び上がって喜んだ。


「まさか、そんなに喜んでいただけるとは……」


「じゃあ、集まる時は私の横にいてね」


「あ、はい、分かりました」


 ティナは上機嫌になりながら、颯爽と家を後にした。


「ね、ねえ。ちょっと……」


 エレーシーは足早に歩いていくティナの後ろから呼び掛けた。


「あの黒猫族の子って、ティナの知り合い?」


「ええ、そうよ」


 ティナはエレーシーが拍子抜けするほど、それが当然かのように答えた。


「シュビスタシアに川船の港ができる前は、トリュラリアの港に卸していたの。その時は、私が自分で、港からさっきの家まで荷物を運んでいかなくちゃいけなかったんだけど、そうすると、あの子が川の東のいくつかの街まで運んでくれるのよ」


「という事は、私が計量官として徴用される前の話かな?」


「そうね。まあ、私もたった数年間の付き合いだったんだけど」


「あの子は何ていう名前なの?」


「名字は分かるのよ、同じ名字だから。下の名前がね……えーと……」

 ティナは頭に拳を当てて必死に思い出そうとした。


「えーと……あ、確か、ワーヴァとか言ったわね」


「ワーヴァ?」


「珍しい名前でしょ」


「確かに、私はこれまで聞いたことはないなあ。でも、名字が同じってことは、何か親戚関係でもあるの?」


「うーん、貴女の『タトー』と同じで、『タミリア』って黒猫族の中ではあまり珍しくはないから、親戚だとはっきりとは言いにくいわね……ただ、遠い親戚かもしれないわ」


「そうか……まあ、何にせよ、道のわかってる人がいるだけで心強いよね」

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