二六三 調印式会場の設営
シュビスタシアの繁華街にある宿屋に着いたミュレス大国軍の幹部達は、荷物を置いて調印式の会場となるシュビスタシアの旧天政府会館を訪れた。
この会館は天政府人が式典を行う時によく使っていた建物で、シュビスタシア再奪還後はミュレス大国軍が兵士達の訓練場としても使用していた。
「ここを式典会場にするから、これから準備をしよう。シュビスタシアの防衛部隊の人にも協力してもらおう」
エレーシーからの指示で、ヴェステックワは防衛部隊にも協力してもらい、幹部達も協力しながら会場の準備を行った。
その間、エレーシーはフェルファトアやエルルーアとともに、文書の確認や調印式の流れについて話し合い、確認した。
その日の夕方、再び会場を訪れたエレーシーは、来たときよりも見違えるほどに豪華に飾られた式典会場を見て、深く頷いた。
「どう、エレーシー? 結構よくできてるでしょ?」
この場の準備の指揮を執っていたアビアンが、エレーシーの姿を見るやいなや駆け寄ってきて、会場を紹介してみせた。
「うん。結構良く出来てる。これなら天政府側も私達の事を見直してくれるだろう」
「向こうの相手は、例のサティリアさんって人なんでしょ? 彼女は他の天政府人とは違うの?」
アビアンはエレーシーがかなりサティリアに入れ込んでいる事について気になり、つい聞いてみた。
「サティリアさんは他の天政府人とは違うよ。少なくとも、これまで私達が出会った、治安管理隊や市町村長、地上統括府の面々とは違う。それに、統括局長のエルドとも違うしね」
「でも、それじゃあ、そのサティリアさんだけが天政府の中で考え方が違うって事? それでよく総裁になれたよね……」
「うーん、そこが不思議なところだけど、それだけサティリアさんに力があるんだろう。よく分からないけど……」
「ふうん……その人が総裁なのに、天政府人は私達に対して厳しいんだよね」
「まあ、ここ数年は総裁にはあまり悪い話は打ち上げられなかったらしい。総裁がこちらを贔屓目で見ていることが気に入らなかったのかもしれない」
「じゃあ、これから天政府はいざこざが起こるのかな……」
「まあ、そこはサティリアさん次第かな……」
二人は調印相手のサティリアの事を思いながら、会場を後にした。
「フェルフ、相手側はもうここに着いたかな?」
エレーシーは、フェルファトアとエルルーア、アビアンの4人での夕食の席で、ふと聞いてみた。
「ええ、天政府側の事務官がこちらに見えてたわよ」
「なるほど。それじゃあ、式典はいつでも良いんだね?」
「ええ。向こうもこちらからの連絡を待っているみたい」
「そういうことなら、式典は明後日にするということでどうかな?」
「明後日ね、良いわ。それで進めておくわね」
「よろしく」
こうして、建国に向けた大事な条約の調印式についての日取りは、これほどまでにあっさりと決まった。
後は、明後日の式典で再び天政府の幹部達と会うことになる。
エレーシーは夕食を終え、市役所で総司令官としての業務を片付けると、式典のために、これまでの疲れを癒やすように眠りについた。




