二六二 シュビスタシアへの帰還
エレーシー達はこれで一段落ついたということで、停戦協定書を携えて天政府側と別れ、幹部達が待つ「宿屋」へと帰ってきた。
幹部の内の数人は、これまでの会議に疲れたのか寝ていたが、エレーシーの姿が見えた瞬間に周りの幹部に起こされて、全員立ってエレーシー達の帰着を出迎えた。
「皆、これまで2回の天政府との話し合いでは、なかなか進まなかったり、文字通り破談となったりして、皆になかなか不安な気持ちにさせてしまっていたかもしれない。しかし、今回の会議である程度の解決に至った。そして、これはこちらから提案したのもあるが、明日からまた長距離移動することになった」
エレーシーの簡単な結果報告の中で、「これから長距離移動をする」という予定を述べた瞬間に幹部達の中からどよめきが起こった。
「これまでに、ミュレス大国が国として成立した時、どこに首都を置くかというような話は、折りに触れて伝えてきたし、今回の新国家を考える上でも議論を重ねてきたが、その時述べたように、シュビスタシアに首都を構えることにした。それにあたって、天政府総裁が、新首都となるシュビスタシアでの調印に合意して下さった。それに伴って、今日から、天政府との停戦協定が結ばれた」
「おおっ!」
停戦協定の話が出てくると、幹部達からも喜びの声が湧き上がった。
彼女達も、最終的には戦争を終結して無事にミュレス系国家を樹立することが目標だったので、この反応も当然といったものであった。
「それで、その講和条約の調印はいつになるんですか?」
「おそらく、天政府の方が先に着くかもしれないけれど、人と会場と文書が揃えば行うということになる。だから我々も、一日も早くシュビスタシアに着いておきたい」
「シュビスタシアは、総司令官の思い入れのある街ですしね」
「まあ、それもあるけどね」
「ところで、出発はいつになるんですか?」
「もちろん、『できるだけ早く』と行きたいから、明後日の朝には出発しようと思う。だから、皆、今日のうちに荷物をまとめて、明日は手分けして遠征の物資を調達してきてほしい。一応、もう戦い自体は終わってるけど、これが最後の遠征になるからね。最後、シュビスタシアに着くまで、気を引き締めて行こう」
「はい!」
幹部達はそれまでの疲れを吹き飛ばすような、はきはきとした返事をすると、もう用は無くなった、臨時の会議室の撤収作業に取り掛かった。
その日はとにかく早くまともなベッドで眠りにつきたいと誰もが思っていたので、撤収作業もかなり速やかに進み、すぐさま元の宿屋へと散っていった。
その次の日は全員忙しなく遠征の準備を行うと、翌朝には予定通り、ポルトリテの街を後にして大街道を南に進んでいった。
普段の大人数での遠征とは異なり、幹部と護衛部隊だけならその機動性は格段に違った。
大街道には所々に宿場町が整備されており、宿屋が足りなくて野営することもなく、毎晩宿に泊まることが出来ていた。
そして、ポルトリテを発ってから9日目の昼を迎えた頃、一本の大きな川がエレーシー達の目の前に現れた。
「皆、ハスタル川まで来たぞ! これを渡れば、もうすぐシュビスタシアに着く!」
エレーシーは遠征で溜まった疲れを忘れたかのように、笑顔で橋を指さしながら幹部達に声を掛けた。
「ついに帰ってきたわね、シュビスタシア」
フェルファトアもようやくこの街に再び訪れることが出来たことに喜びを感じた。思えば、フェルファトア達旧西軍の者は、この戦いでシュビスタシアを通ったことは無く、幹部の中にはシュビスタシアを訪れたことが無い者もいた。
「向こうに見えるのが、シュビスタシアの街ですか。結構大きい街ですね」
「ここは元々、中央ミュレシアの代表都市だからね。首都になる素質は既に十分ある。ヴェステックワの話では、防衛戦で結構破壊されたようだけど……」
エレーシーは、シュビスタシアの思い出話をしつつ、ヴェステックワにシュビスタシアの現状についての説明を受けながら、ハスタル川に掛かる橋を渡り、シュビスタシアの市内へと入っていった。




