二五六 三回目の会議へ
会議の場を出た後、エレーシー達は幹部達が待つ宿屋に戻り、今日の天政府軍側との会議の結果を話し始めた。
「えー、今日は天政府軍と講和条約を結ぶはずでしたが……残念ながら、交渉は決裂となりました」
「えっ?」
エレーシーが報告した瞬間、他の幹部達はまさかの結果にざわついた。
「えっ……どうしてですか?」
「相手が用意した条約案が、私達にとって圧倒的に不利だったからよ」
エルルーアはエレーシーが話し始める前に、先回りして説明を始めたが、あまりの一言に幹部たちは凍りついていた。
「破り捨ててやったわ」
エルルーアは半ば得意げになって話していたが、それを聞いていた周りの幹部たちは困惑の顔を浮かべたまま、両隣の人と顔を見合わせていた。
「……そこからは……?」
幹部の一人が恐る恐る聞いた。
「そこから? まあ、そこからは私達が帰りましょうって言って、帰ってきたけど……」
「うーん……」
幹部達はエルルーアの言葉に、一斉に難色を示し始めた。
話だけ聞いている彼女達からすると、単にエレーシー達が何の考えもなく感情的に破棄したと思ったのかもしれなかった。
エレーシーはその雰囲気を感じ取り、ひたすら説明に徹した。
しかし、彼女達の心配はもはやそこではなかった。
「ところで総司令官、これからどうするのでしょうか……?」
「これから?」
「だって、交渉決裂したまま帰ってこられたんですよね。天政府からミュレス大国の樹立を認めさせるためにも、条約締結は必要では?」
エレーシーは他の幹部からの指摘に、腕を組んで答えに詰まらせた。
「分かっています。条約締結は、します」
「でも、相手は……」
「そこは問題ない。向こうも条約を結ぶためにわざわざ本国から来ているんだから、ポルトリテに残っているはず。天政府だって、既に地上統括府の総司令官が捕まったままなんだから」
「そうだといいんですけどね……」
「一応、向こうとの連絡役はいるし、大丈夫!」
「そうですか……」
幹部の皆が何となく不安げな顔をしつつ、静かな空気を感じながら探り合いをしている中、エルルーアは手を叩いてその空気を壊した。
「さて、天政府の次の行動を考えながら、どうするかを考えましょう」
エルルーアの言葉にエレーシーも乗っかり、次の会合の際にどのような要求を突きつけるかを改めて考える方向に向けて話を進めていった。
それから数日後、作戦がある程度固まっていった頃、天政府側の連絡係から新たな条約締結の場を設けるとの連絡が入った。
エレーシー達は天政府側に主導権を与えたくないという考えから、こちら側から連絡を入れたいと思っていたが、先手を取られた形となってしまった。
指定された場所は、ポルトリテ市役所の最上階にある貴賓室であった。
前回話し合いをした部屋は同じ市役所の中の、普通の会議室を飾り付けた程度だったことからも、向こう側の意図を図らずにはいられなかった。
「緊張するなあ……」
エレーシーが少し呟いたことも、エルルーアに即座に目線で牽制された。
天政府との交渉の上では、一瞬たりとも隙を見せてはいけない。
そういう思いが、彼女達の中にはあった。
「お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ……」
彼女達が市役所に到着すると、ミュレス人の兵士と天政府人に丁重に出迎えられ、建物の中へと案内された。
これまでの天政府の対応とはうってかわって、「敵対している」という感覚は見られなかった。
(様子がおかしい……)
エレーシーもその事にはすぐに気づいた。
戦闘とは違った緊張感が、ここには張り詰めていた。




