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二五五 二回目の会議

 次の日の朝、天政府との2回目の会議が始まった。

 まるでその間の2日間がなかったかのように、両者とも同じように席につき、前回と同じような張り詰めた冷たい空気が流れていた。


「天政府より頂いた草案をこちらでも確認して、再び意見をまとめてきました」

 エレーシーはおもむろに紙を取り出すと、それを読み上げ始めた。


「まず、前回も述べたように、我々のこの戦いの意義であり、目的でもある、ミュレス民族の完全なる独立と、我々のことは我々で決めたい。天政府の不干渉を要求します。それにあたり、我々ミュレス民族による国家の建国を承認していただきたい。今回、これを要求します」


 エレーシーが読み上げる中、エルドはかなり冷めた表情で見つめ、顔を動かさずに目だけ動かして3人の顔を見ていた。

 エレーシーは読むのに必死であったが、フェルファトアとエルルーアはエルドの何も読み取れない表情に得も言われぬ不気味さを感じていたようであった。


「……分かりました。我々もこの2日間、持ち帰って考えました。我々天政府は、ミュレス民族による、ミュレシアとミュレス民族の統治……それは認めましょう」


 エルドの言葉に、ミュレス大国側の3人の中で空気が少し明るくなるのを感じた。


「ただし、やはり貴女達は政については初心者。新政府はミュレス民族を中心に構成する……それ自体は我々も認めますが、新政府は天政府の指導にあるものとしたい。そして、地上統括府はミュレシア中央政府に改めます」


「えっ……」


「地上統括府は解体されたんじゃ……」


「そんなものは、また立てればいいのです。そして、ミュレシアには今も天政府人が住んでいますね。その皆さんについては、ミュレス民族新政府の統治外ということにさせて下さい」


「それはどういうこと……?」


「ミュレシアにいる天政府人は、ミュレシア中央政府の管轄となるというわけ」


「えっ、それは……」


「簡単な話で、貴女達ミュレス民族についてはミュレス民族新政府。私達天政府人はミュレシア中央政府。そういうことよ」

 エルドは飄々として天政府側の意見を述べた後、エレーシーの前に紙を出した。


 エレーシーはそれを手に取り、3人で確認したが、先程エルドから聞いた通りの内容が書いてあった。


「うーん……これは……」

 これにはエレーシーも難色を示した。


 勝利したにも関わらず、かなりの苦難を強いられそうな案には、到底受け入れられない内容であった。


「これがね……散々天政府軍を打ち負かしたのに、まだこれは、私達もさすがに……」


 フェルファトアも同じように、納得がいかないといった感触で、せっかくの2回目の会議にも関わらず、これでは進展はなさそうだということはふと思い浮かんだ。


 しかし、それをエレーシーが直接伝えると、それはそれで無駄に戦争を長引かせることにしかならないような気がしていた。


 相手にだって、国の代表として席に座っているという自尊心はある。

 それを損なわせると、自民族にとってどのような損害を被ることになるのか。

 ましてや、熱しやすく冷めやすいようなエルドの先に読めなさにはなかなか踏み込めないでいた。


 エレーシーはミュレス大国の最高位として、どう相手にもう一度考え直してもらおうかと思案していた。



 しかし、エルルーアが考えていることは、エレーシー達のような穏当なものではなかった。


 あまりにも天政府人に有利すぎる内容、そしてエルドのミュレス民族に対する不遜な態度。


 エルド達天政府人が、彼らがミュレス民族を恐怖で抑えつけていた時と全く思想が変わらないままであるのは明白であった。


 言うなれば、彼らにとってはまだミュレス民族は天政府人の奴隷。

 実際には、この時点で少なくとも、「ミュレス大国」は「天政府」よりも優位に立っていることは確実であるのに、よくもこのような講和案を平気で出してくるものだ。



 考えれば考えるほど沸き立つ、天政府本国への恨みや辛み。

 そして、一度ならず二度までも出てくる、なぜか戦勝国のはずのミュレス大国やミュレス民族がある種の不条理を被るという条約案。



 この提示されたものに対して、議論の余地は僅かにも無かった。

 

 エルルーアはエレーシーの持っていた相手の草案を横から奪い取ると、紙の上辺に手を掛けた。


「あっ!」


 エレーシーは奪い取られたということと、手を掛けたことの両方に驚きの声を上げた。そして、他の出席者も声を上げた。あのエルドでさえも声を上げていた。

 しかし、エルルーアはその声を認識する時間もなく、両手で勢いよく引き裂いた。


「あっ! あっ!」


 エレーシーはエルルーアの突然の行動に驚いてみせた。


 エルルーアは四分割された紙片を静かに机に置き、すっと立ち上がった。


「行きましょう、総司令官」

 そう言って、一人で出入口の方へとツカツカと歩いていった。


 エレーシーはその場をとりなすのかと思いきや、その後を追うように席を立った。


「続きのことは、ハルピアに」


 彼女はエルドに向けて一言だけ言うと、フェルファトアと共に部屋を出ていった。


 部屋に残されたのは、エルド達天政府関係者と、事務役のミュレス人であった。

 エルドはこの急な退出劇に怒るでも、慌てるでもなく、ただ所在なく辺りを見回すしかなかった。

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