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二五二 天政府統括局長との会談とミュレス大国の主張

 エレーシー達が最上階の廊下を歩いていると、会場となる会議室の前で天政府側の一団と顔を合わせた。

 使者から話を聞いたのか、向こう側も三人でこの会議に臨むようであった。


 いつもならば廊下で出会った時点で先に挨拶をするところである。


 しかし、どちらも緊張していたのか、特に話を交わすことなく、案内役の者に言われるがままに入室して静かに席についた。


 どちらも最上位にいる者が真ん中に座り、その右隣に次位の者、そして左隣に第三位の者が座ることになっていた。(註釈:現在とは違うが、当時はこれが儀礼上普通であった。)




 まず挨拶のために立ち上がったのは、エレーシーであった。


「はじめまして。私はミュレス大国軍総司令官のエレーシー=ト=タトーです。こちらは統括指揮官のフェルファトア=ヴァッサ=ヴァルマリア、そしてこちらは参謀長のエルルーア=タミリア」


「よろしくお願いします」


 三人は相手側の中心人物と思しき女性と挨拶をしながら握手をしたものの、どうもあまり友好的ではない印象はすぐに感じ取れたようだった。


「では次は私達ね。私は天政府統括局長のエルド=アルチオサティリア。どうぞよろしく。そして、こちらは総裁補佐官のラウラ=エルエンド、そして統括局副局長のメトウ=ベルビア」


「よろしくお願いします」


 天政府側は簡潔に挨拶を済ませ、さっさと席に戻った。

 エレーシー達が思い描いていた、「じっくりと会談を行う」という状況とは異なり、早く終わらせたいのではないかと思うような動きが天政府側に見られた。


 特にその印象はエルドからは強く感じ取ることができた。


 彼女には依然、いくら地上統括府が解体させられたとはいえ、ミュレス民族は天政府人より下に位置し、取るに足らない存在だと考えているのだろう。

 彼女の様子からはそのように思わせるような言動が多々あった。


 実際に、未だに天政府本国は強大な国であり、今は天政府軍が一部引き上げてはいるものの、天政府本国とミュレス大国の全面戦争になれば敗北は避けられないような戦力差があることは、エレーシーにも分かっていた。


 勝っていながら、圧倒的優位には立てない理由がそこにあった。

 だからこそ、今の関係性が、ミュレス民族にとって有利に働かせるには絶好の機会でもあった。




 エレーシーは相手の雰囲気に呑まれないように、そして先手を取られないようにするためにも、こちらから切り出すことが重要だと考えた。


「まず、今回このように会議を設定したのは、この度の戦いを終わらせて、貴女達の国と我々の国との関係を明確にするための会議だということは言っておきます」

 エレーシーは席に座ると、あえて顔色一つ変えずに淡々と言った。

 それには相手側も特に異論はないようで、エルドは黙って頷いた。


「ところで、我々がルビ=ルフェントを奪還して、地上統括府総司令官を捕らえた後、その地上統括府総司令官が地上統括府の解体を宣言したということは、もちろん知っていますよね?」

 エレーシーはわざといたずらっぽくエルドに尋ねた。


 その言葉にエルドは少し考えたような素振りを見せた後、正面を向き直して答えた。

「もちろん、それについては我々も聞いているわ。でも、その情報は貴女達から来た情報でしょう? それが真実かどうかは貴女達しか知らないこと……」


「ふうん……なるほど……」


 当然といえば当然かもしれなかったが、彼女の回答からは不信感がひしひしと伝わっていた。


「今回の会議で、今後のミュレシアをどうしていくか、お互いに話をしていきたいと思います」


 エレーシーがエルドに向けて言うと、その横からフェルファトアも続けて話し始めた。


「これまでの戦いで、どちらが勝っているか。それは誰が見ても明らかな状況でしょう。貴女が信じるかどうかはともかく、現に地上統括府の解体は宣言されているし、それで天政府人がミュレシアを統治できない状況なのは確かな訳で、だからこそ、我々は貴女達にミュレス民族による国家を、このミュレシアに建国することを認めてほしいわね」


 フェルファトアはミュレス大国および軍として、伝えたいことをそのまま伝えた。それについてはエレーシーもエルルーアも特に何とも思わなかったが、エルドには思うところがあるようだった。

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