二四四 地上統括府の中へ
作戦の通り、弓矢部隊と特殊能力部隊は外に配置し、天政府軍が地上統括府の中に入らないように見張る。一方で主力部隊と決戦部隊の2部隊だけが地上統括府の中に突撃していく。
この地上統括府の周りはもともと広く場所を取ってあり、その中にはミュレシアで一番大きな建造物もあった。
そして、地上統括府の正面に位置する建物の玄関前には庭園が広がっており、非常に荘厳な雰囲気を醸し出していた。
しかし、実はその建物の奥にも中庭のような場所があるようであった。
この通り、「地上統括府」自体は複数の庁舎の集合体になっており、その中には、この地上統括府を統べる総司令官の居室がある「地上統括府総司令官棟」もあった。
以上のことは、情報部隊のハルピアがエレーシー達に教えていたことであったが、ハルピア自身も総司令官棟自体にはなかなか潜入できていないようだった。
どうやら地上統括府の最奥にあることは分かっているのだが、さすがに守りは強固になっており、少数精鋭の情報部隊でも潜入すらままならないようであった。
だが、そこに数で立ち向かおうとするのがエレーシーの作戦であり、ミュレス大国軍の得意とする戦法であった。
さして戦法という程の戦法でもないが、国もなければ系統だった古くからの軍も持たなかったミュレス民族らしいといえばらしい作戦ではあった。
まず、彼女たちの目の前にあるのが、地上統括府全体に入るための門であった。
地上統括府市自体には門はないが、この地上統括府の前には、しっかりとした門が作られていた。
それは、普段、ミュレス民族のような天政府人ではないものの入場を拒む門であったが、それを主力部隊で破壊しようとしていた。
「正門突破!」
主力部隊長の言葉が響くと、全員一斉に門の中へと押しかけていった。
その中でも、エレーシー達、軍幹部の中でも最上級に近い幹部が率いる決戦部隊が最初に中へと入っていった。
「総司令官棟は!?」
フェルファトアが混乱の中で声を上げた。
「こちらです!」
ハルピアがその声に応えると、彼女たちの先頭に立ち、部隊を先導していった。
正門を乗り越えると、広大な庭園の奥に位置する幅広い建物が奥の様子を隠していた。
ハルピアの話によると、あの建物は内務院であり、この地上統括府一帯の建物群の受付のような役割も引き受けていたようで、市役所のような役割もしていたようだった。
割と簡単に敷地内に入れたミュレス大国軍であったが、天政府軍もその状況を指をくわえて見ていたわけではなかった。
「ミュレス人達が入ってきたぞー!」
突如、地上統括府の奥からそのような声が響き渡った。
その瞬間、内務省の建物の脇から天政府軍の一団が一斉に湧き出した。
「来た……!」
これはエレーシー達にも想像はしていた。
だが、それだけではなかった。
喧騒の中にも、遠くの方から大勢の足音や声が近づいてくるのが聞こえてきた。
「総司令官、あれは……?」
「おそらく、突入の時に交戦した天政府軍が帰ってきたのか、それとも何処か別のところにいた部隊か……」
「これでは挟み撃ちになりませんか!?」
「大丈夫、そのための弓矢部隊と特殊能力部隊だから。それに、遅かれ早かれ、この地上統括府の攻略のためには、これもあることだよ。フェルフ!」
エレーシーはフェルファトアに声を掛けると、この状況を察知したフェルファトアは伝令役の兵士を呼び、フェブラとルーヌに、外部から来た天政府軍を地上統括府内に入れさせないように、徹底抗戦することを改めて命じさせた。
「よし、これでもう外の部隊のことは一旦考えないようにしましょう」
フェルファトアの言葉に、エレーシーは頷いた。
「そうだね。私達は総司令官棟の方に注力しよう」
そうしているうちにも、真正面から天政府軍が近づいてくるのが見えた。
「主力部隊! 一から六班で対応! それ以外は総司令官達に続け!」
「はい!」
主力部隊を担当したアルミアは、すかさず戦線を展開した。
とにかく、決戦部隊を前に送り込むことが第一であった。
主力部隊の交戦を後目にエレーシー達と決戦部隊は、ハルピアの先導で内務院の中へと入っていった。
「ちょっと、いきなり建物の中に入って大丈夫?」
エルルーアが少し心配そうにハルピアに問いかけた。
「大丈夫です! こっちから外に出られますから!」
ハルピアは、エルルーアの不安を払拭するように声を上げながら、内務院の複雑な通路を一直線に走り抜けた。
なるべく広い通路を選ぶのは、さすがといったところであった。
「この先です!」
ハルピアが扉を上げると、さらなる庭園が姿を表した。
「また、こんなに広い庭が?」
「ええ、この地上統括府には、中庭があるんです。そして、あそこにありますね?」
ハルピアが指さした先には、また建物があり、その奥に、どの建物よりも目立つ、高い塔のような建物がそびえ立っていた。
「うわあ、これまた大きな……」
エレーシーがその高さを推測するに、7階建てであった。
これほど高い建物は、シュビスタシアにもポルトリテにもなく、おそらくこの建物が唯一と感じた。
「あれが、総司令官棟ですよ」
「その手前にあるのは?」
「ああ、あれは……色々な院が寄っているようなところで……」
ハルピアが曖昧な説明をしているときに、その後ろからフェルファトアも話に割って入った。
「この中なら、私も来たことがあるわ。この中に、教育院もあるの」
「じゃあ、あの真ん中にある総司令官棟には?」
「いや、そこまでは行ったことはないけど……囲っている手前の建物にあるのは、幹部会議室や院長室のような、地上統括府の幹部級の部屋が多いみたいね」
「なるほど、そういう部屋が集まっているのか……」
「これでまた、地上統括府の中核に入っていくような感じがするわね」
フェルファトアの言葉を聞いて、エレーシーやエルルーアは感嘆の言葉を漏らしたが、さらなる興奮を抑え、緊張感を振り払うかのように目の前にある建物の中に入っていった。




