二四三 地上統括府攻略の最終会議
「エレーシー! あれが地上統括府の本庁舎よ!」
フェルファトアが指差した先には、これまでとは全く雰囲気の違う建物群が並んでいた。
それらの建物の正面を陣取る建物は、高さこそ低いものの横幅は広く取られており、その前には広い庭園のようなものが作られていた。その庭園の側面から向こうに、これまでエレーシーが見たこともないほど高くそびえる建物がいくつも立ち並んでいた。
「これが、私達が追い求めてきた、地上統括府か……」
エレーシーは、その巨大な光景に圧倒されていた。
これが普通の観光ならば、その建築物の偉大さを目の当たりにした余韻に浸りたくもなるが、彼女にはそのような余裕は一切なかった。
この数年間の間、友を失いながらも、挫けても辞めることなく、戦い続けてきたその目的が、今、手に届く位置にあった。
しかし、そう易易と手にできるものでもないことは、エレーシーにも分かった。
「総司令官!」
ふと彼女を呼ぶ仲間の声に振り向くと、そこには既に他の部隊の姿があった。
西側部隊を率いていたフェブラとティアラ、そして東側部隊を率いていたエルダンディアとヴェステックワの姿がそこにあった。
「皆、待たせたね。途中では無事だった?」
「西側部隊は天政府軍と交戦し、多少の被害はありましたが、天政府軍を撃破しました!」
「東側部隊も天政府軍と交戦して、防衛戦しか経験していないからか割と苦戦はしたけど、なんとか撃破できたわ」
「うん、ひとまずはほぼほぼ作戦通りだ。二人とも、ありがとう」
エレーシーは作戦が順調に進んだことに満足気に頷いた。
「エレーシー、まだアルミア達が来てないわよ」
フェルファトアが後ろから囁いた。
「あ、そうだ。北側部隊の様子は知ってる?」
エレーシーの問いかけに、西側部隊を率いたフェブラが反応した。
「はい、途中で見ましたが、まだ天政府軍と交戦していました」
「なるほど、北側部隊は引き寄せ部隊だからなあ……無事ならいいけど……」
そのような話をしているうちに、北側部隊の一団も姿を現した。
「遅くなりました。北側部隊、只今到着しました!」
「お疲れ様。そちらの状況は?」
「ええ、被害の方は、それほど良い状況ではありませんが、なんとか天政府軍を打ち破りました!」
それを聞いたエレーシーは、多少の心配はしつつ、とにかく敗北を喫しなかったことにはひとまず胸をなでおろした。
「よし、それじゃあ最後の仕上げだ。幹部の皆、集まって」
エレーシーは、その場にいた幹部たちに声をかけ、輪のように並ばせた。
「いよいよ、これから地上統括府本体の占領作戦に移るわけだけど、まずはハルピア、最新情報について教えて」
情報部隊担当のハルピアは、呼ばれると彼女達の前に立ち、地上統括府に潜入して調査した最新の結果を全員に共有した。
「ありがとう、ハルピア。それじゃあ、これからの行動についてもう一度確認しよう。弓矢部隊はこれまでアビアンが引き連れてきたけど、フェブラが先導して、天政府軍を寄せ付けないように攻撃をし続ける」
「はい!」
「そして、特殊能力部隊は引き続きルーヌが先導して、弓矢部隊と共同で、天政府軍を地上統括府の中に入れさせないようにする」
「了解です!」
「そして、主力部隊はアルミアが先導して、この中にいる天政府軍の戦力を排除する」
「はい!」
「そして、ここに再編成する決戦部隊。これは、私とフェルフで先導する。そして、エルルーアとアビアンは私達についてくる。これでいいね?」
「分かったわ」
「それじゃあ、最後だ。最後に旗を掲げるまで、気を抜かないように! 行こう!」
「はい!」
エレーシーは地上統括府市攻略から地上統括府自体への攻略に向けて体制を再編成するように幹部に指示をすると、彼女は再び集まった兵士達の前に立った。
「皆! これまで我々は、地上統括府打倒のために、トリュラリアで朝、初めて旗を上げ、それから東はノズティア、北はメルンドと、このミュレシア全土を駆け巡ってきた。そして今、我々の目の前に、我々が目標としてきた地上統括府が、こうしてそびえ立っている。しかし、ここで圧倒されてはいけない。こここそが、この数百年もの間、このミュレシアに圧政を敷き、我々ミュレス民族を束縛してきた地上統括府そのものだ! 今、この長きに渡った天政府人による悪政を終わらせ、この地に我々ミュレス民族の国を築くべく、我々は最後の戦いに挑む! 皆、心して掛かれ!」
「はい!」
エレーシーの短い訓示に、兵士たちは短く大きな発声でもって応えた。
彼らの顔を見て、エレーシーも身が引き締まる思いで彼らに背を向けた。
その瞬間、異様な静けさが街に立ち込めた。
フェルファトアは隣りにいるエレーシーの顔を見ながら、お互いの覚悟を確認すると、自らの剣を再び振るい、前に掲げるようにして振り下ろした。
「地上統括府へ! 突撃!」
フェルファトアが声を上げると、兵士たちはその静寂から一気に自らの中で興奮を沸き立たせてめいめいに声を上げた。
「わああああっ!」
そんな興奮の中にある兵士たちを冷静に導くのが、軍幹部の役目であった。
先ほどの打ち合わせ内容に従い、それぞれの持ち場につき、すぐさま戦線を展開していった。




