二四二 南側部隊の北進
一方、エレーシー達南側部隊もやっと中心部まであと半分といった時であった。
突然、彼女たちの耳に叫び声が飛び込んできた。
「隊長! こっちからも来ています!」
それは、まさしく天政府軍のものであった。
「迎撃しろ! 何があっても本部まで入りこませるな!」
天政府軍の兵士の言葉に、隊長と思しき人が周りに大声で呼びかけた。
そして、その声はもちろん、エレーシー達にも聞こえていた。
「皆! いよいよ天政府軍のお出ましだ! 突っ走れー!」
「はい!」
これまで幾度となく行われた、天政府軍との戦い。
ミュレス大国軍はこれほどまで大規模な市街戦は経験したことがなかったが、道の広さが却って、自分たちが慣れていた草原での戦いと大差ないように思えた。
「ここの街道は思った以上に広い! 全員、勝ち戦を思い出せ!」
「はい!」
エレーシーは周りの兵士を鼓舞すると、自分の剣を構え直した。
「皆、ここからがさらに激しい戦いになる! 行くぞ!」
「おーっ!」
総司令官として周りをさらに盛り上げて高揚させながら、さらに前へ突き進んだ。
「各部隊! 配置しつつ攻撃!」
「攻撃!」
フェルファトアの合図をきっかけに、各隊長もさらに気を引き締めて各隊の指揮に集中した。
軍の最高位級である総司令官や統括指揮官は、とにかく天政府軍を打破するための加速度を与える役割に徹していた。
「やーっ!」
天政府軍を目の前に、エレーシーも一兵卒のように剣を振るった。
同じように、フェルファトアも剣を抜き、エルルーアも同じように天政府軍と対峙していた。
それはまさに、総力戦であった。
この時間であれば溢れているであろう市民の姿はもはや無く、軍と軍の激しい衝突だけがそこにはあった。
「なかなか相手も手強いな……」
天政府軍の、これまでにも増して重厚な戦力に、ミュレス大国軍は悪戦苦闘しながらも立ち向かっているが、なかなか前に進めない。
「皆! 向こうにも行ってみて!」
「はい!」
そんな中でも、フェルファトアは他の隊に、小道の方までも行くことを勧めた。この街で暮らしていた彼女ならではの作戦であるが、逆にそこから天政府軍が現れると、一気に窮地に陥るという恐れもあった。
エレーシーはふと、街道上での戦いに比較的長く時間を取られていることに気がついた。
肝心の攻略対象は地上統括府の本庁であるのに、こんなところで長い時間と多くの戦力を費やしているわけにはいかない。
ここでも、何か突破口を求めていた。
「こんな時、ルーヌ達が何よりも頼りだ」
エレーシーはルーヌ達の魔法技術こそが天政府軍に対する突破口となると信じていた。現に、彼らにはこれまでにも幾度となく助けられてきていた。
「特殊能力部隊に『突破口』を作らせよう。そこに一気になだれ込む」
「はい!」
エレーシーが周りの兵士に伝えさせると、しばらくして戦いの様相は急変した。
指示した通り、特殊能力部隊は天政府軍の一団の中に文字通り火を放ち、敵軍の中に混乱をもたらしていた。
「よし! 上手く引っかき回してくれた! さあ、皆も続くぞ!」
「おーっ!」
エレーシー達は、天政府軍の中が混乱の中で守りが薄くなっていそうなところを見つけ出し、そこを集中的に攻撃することで、これまでよりも速度を上げて前進していった。
そしてやがて、天政府軍の集団を抜けて、さらに大通りを北進していった。
その間にも天政府軍は次々とやってきていたが、勢いと戦い方を身に着けた彼女達にとっては、そのような障壁は障壁とも思えないようなものだった。
これこそが、ミュレス民族の数の力とも言え、底力でもあった。
エレーシー達に見えるのは、向こうにそびえ立つ地上統括府の庁舎群。
それこそが、この一連の戦いの最終目的地でもあった。




