二三六 エレーシー達の回答
エレーシー達は、神妙な面持ちで大使が待つ応接室に帰ってきて、無言で席についた。
大使が固唾をのんで彼女達の回答を待つ中、エレーシーはふと、にこっと笑ってみせた。
「食事でもどうですか?」
「……え?」
大使は突然の提案に呆気にとられたようだった。
「しかし、会議は……」
「行きましょうよ」
「せっかくルフェンティアに出向いていただいたのですから」
フェルファトアとエルルーアは、大使に発言をさせないように次々と誘いの言葉を並べながら、机の上に広げた資料を片付け、大使を部屋の外へと連れ出すと、後ろからアビアンもついてきた。
「アビアン、彼のお付きの人にも声をかけて」
「はい!」
そこから大使とお付きの人を市役所の近くにある酒場に連れて行った。
時間は昼と夕方のちょうど間くらいであったが、このルフェンティアには市民はいないので、誰もいない酒場を用意することは簡単なことだった。
市役所から近い酒場は、街で一番大きな通りに面している割には簡素な酒場で、街の中にはそこよりも格式の高い酒場もあるにはあるが、そこまで接待をするような相手には見ていなかったのかもしれなかった。
地上統括府側が3人に対し、ミュレス大国軍はアビアン、フェンターラを含めた5人で、ここでもミュレス大国軍が数で圧倒するような形を作っていた。
空気はというと、食事会というよりは、ただ会議の間の休憩といったような空気になっていた。
最も、大使達の心の中では「これが終わったらまた協議が始まるのではないか」という期待も少しはあったかもしれない。
食事会が終わったあと、エレーシー達は大使とともに市役所に戻らず、そのまま北門へと向かった。
「待て、会議は……」
大使はまだ停戦協議を続けようと粘ったが、肝心のエレーシー達が北門まで見送りに来てしまってはどうしようもなかった。
「また今度」
エレーシー達は大使に軽く挨拶をすると、街の中へと帰っていき、門番はそのまま門を閉ざしてしまった。
「まだ話がある」
大使は門番に言い寄った。
「総司令官の許可が無ければ、開けることはできませんので」
門番はその一点張りで頑として入れようとはせず、どうしようもなくなった大使達は、そのまま自分たちが来た道を帰るしか無かった。そしてそれを門番がじっと見送るのみであった。
門が閉ざされてからのエレーシー達の動きは非常に慌ただしいものになった。
エレーシー達はその後、再度幹部を集めて夕食会を開き、そこで今後の計画について発表した。
そしてエレーシーは最後に意思表明を行った。
「今日やってきた大使は、残念ながら自分の役割を果たすことが出来なかった。彼は我々の要望に応えることが出来なかった。彼はなにも土産を持たずに、地上統括府に帰ることになる。彼が地上統括府や天政府本国に今日あったことを報告すると、彼らは直ちに次の行動へと移るだろう。だが、それが動き始める前に、私達が先手を打つ。天政府軍がルフェンティアを取りに来る前に、私達が地上統括府を取る。そのために、次の作戦をできる限り早急にまとめ、そして実行しよう!」
幹部達はその日の夜から動き始めた。
次の戦いが、勝っても負けても、最後になるだろう。
これまでの集大成が近づいていた。




